トナーリのスタッツに見る、ミランの戦術的問題点について

サンドロ・トナーリ
「出場時間」という観点からは、今シーズンにおけるミランの中盤の第一人者をトナーリと定義することができます。

今季ここまでの彼は公式戦34試合に出場スタメンは31試合で、その内24試合はフル出場欠場したのは怪我(1試合)、ターンオーバー(1試合)、サスペンション(1試合)を理由とする計3試合のみという事で、シーズンを通してほぼ出ずっぱりであることが分かりますね。

そんなトナーリが記録しているスタッツの中には、今季のミランが抱える戦術的問題点を示唆するものが含まれています。今回はその点について見ていきましょう。

組織的なダイナミクスの崩壊


『GdS』によると、今季のトナーリは守備に関するスタッツに改善が見られるとのこと。1年前と比較して、1試合あたりのタックル数は1.35回から1.75回ボール回収数はトータルで128回から136回へと増加しています。

また、いくつかのスタッツは「カタールW杯の前後」で比較すると顕著になるようで、1試合あたりのタックル数は1.68から1.8回に、デュエル勝利数は3.05から4回へと増加。W杯開催期間中に身体を休めることが出来たという側面はあるでしょうが、トナーリの強みであるタフネスや守備時の積極性は今シーズンも発揮されているといえますね。

しかしながら、攻撃面とりわけパスに関するスタッツは悪化傾向にあります。
『fbref』によるデータを参照すると、まず1試合あたりのパス本数自体が昨シーズンと比較して約10本減少。またパス成功率も81.6%から73.0%とかなり下落していますが、かといってチャレンジングなパスを多く出せているという訳でもなく、前進パス本数やファイナルサードへのパス数も減少しています。キーパス数などは増加していますが、ボールの出し手としての安定感や精度に欠けているのは否めません。

その原因の1つとして、『GdS』は「組織的なダイナミクスの崩壊」を挙げています。要するにチームがボール保持の際に連動性を欠き、有効なスペースやパスコースを継続的に作り出せていないということでしょう。その悪影響を中盤の選手(トナーリ)が最も被っている、と。
直近2試合のマッチレビュー記事でも詳述した通り、ボール保持時におけるミランのチームパフォーマンスの低さは目に余りますし、個人的にも異論はありません。トナーリ自身にも攻撃面で改善すべき点はあれど、現在の不振は組織的な問題による部分が大きいと考えます。

【崩しの局面におけるクオリティ不足について】ミラン対サレルニターナ【2022-23シーズン・セリエA第26節】

【崩しの局面におけるクオリティ不足について】ミラン対サレルニターナ【2022-23シーズン・セリエA第26節】

※関連記事



【攻撃の問題点まとめ】ウディネーゼ対ミランその2【2022-23シーズン・セリエA第27節】

【攻撃の問題点まとめ】ウディネーゼ対ミランその2【2022-23シーズン・セリエA第27節】

※関連記事




手薄な中盤


先ほど、1年前と比べてトナーリの守備的スタッツが改善されている点に言及しましたが、比較する時期を変えることで現在のミランが抱える問題点が露になります。それは「3-4-2-1へのシステム変更の前と後」です。

インテルとのダービーに敗れて以来、すなわち3-4-2-1に変更して以来、トナーリは26回のデュエルを行い17回負けている。その原因については疲労の他にも、トップ下を削ってディフェンダーを増やしたことで説明できる。中盤の密度が低くなり、彼は不利な個人戦を余儀なくされているのだ。また、1月8日のローマ戦でトナーリは「7回」のボール回収数を記録していたが、それ以降、彼の最大回収数は「3回」となっている――calciomercato



「中盤の密度が低くなる」という現システムの構造上の問題点について、ミランはブラヒムによる中盤のサポート(変則的な5-3-2の形成)や最終ラインが積極的に縦スライドすることによって対応しようとしました。
トッテナムのように、あまり組織的・流動的な攻撃を仕掛けてこなかった相手に対しては実に良く機能したわけですが、セリエAの舞台ではフィオレンティーナ、ウディネーゼといった曲者相手から手痛いレッスンを受けています。

まずフィオレンティーナは右ウイングを主にサイドに張らせて対面のミランWB(テオ)を牽制しつつ、その手前のエリアでSBがボールを持つことでトナーリをサイドへ誘引。これにより中盤にスペースを作り出しました(※詳細は以下のマッチレビュー記事)。

【明暗を分けたドリブルの有無】フィオレンティーナ対ミラン【2022-23シーズン・セリエA第25節】

【明暗を分けたドリブルの有無】フィオレンティーナ対ミラン【2022-23シーズン・セリエA第25節】

※関連記事



他方、ウディネーゼは中盤の構成(アンカー+インサイドハーフ)を活かしてブラヒムを中盤ラインのサポートに入り辛くさせ、ミランのダブルボランチを晒します。そしてインサイドハーフのサイドに流れる動きやCBが攻め上がる動きでベナセルをサイドに引っ張り、基本的にトナーリ1人となった中盤エリアにWBやインサイドハーフが飛び込む流動的な攻撃によってバイタルを攻略しました(※詳細は以下のマッチレビュー記事)。

【守備の問題点まとめ】ウディネーゼ対ミランその1【2022-23シーズン・セリエA第27節】

【守備の問題点まとめ】ウディネーゼ対ミランその1【2022-23シーズン・セリエA第27節】

※関連記事



このように中盤の選手たちが広大なスペースを守る必要に迫られた結果、相手優位のデュエルに頻繁に挑ませられる上にボール回収もままならず、相手に主導権を握られ易くなってしまうわけですね。なお、後方の3CBが安定している時はゴール前で相手のシュートチャンスを防ぐ事が多くの場合出来ていたものの、酷使によるパフォーマンスの低下によりそのメリットもなくなってしまった、と。
上記のトナーリのデータはそうしたネガティブなチーム状況を象徴しているといえるのではないでしょうか。


以上を踏まえると、4バックへの回帰により中盤の密度を高め、前からのプレッシングの圧力を強めるのはどうかという話になっていくのは必然です。対戦相手の戦術や自チームの状況にもよるため一概には言えませんが、少なくとも状況に応じてシステムを使い分けていく柔軟性は今後強く求められていく気がしますね。

1Comments

マツモト

今回もカカニスタさんに全同意ですね、プレスの位置をもう少し低くしてコンパクトな守備範囲にしてその中で激しい守備なら運動量の節約にもなると思います
そして今どこのリーグでも中盤での戦いに負けるチームは苦しんでいるのでMFは3枚欲しい4−3−3やアンカーを置いた形など口だけでなく状況に応じて試して欲しい

  • 2023/03/27 (Mon) 17:57
  • REPLY