【攻撃の問題点まとめ】ウディネーゼ対ミランその2【2022-23シーズン・セリエA第27節】
今回はセリエA第27節、ウディネーゼ対ミランのマッチレビュー(後編)です。

上掲の前編では守備面について振り返ったため、ここでは攻撃面について詳述していきます。
スタメン(再掲)

ベースフォーメーション:
ウディネーゼ「3-5-2」
ミラン「3-4-2-1」
ボール保持時のミランは、右CBのカルルが積極的に前方サイドへ位置取る形を基本にしており、これは従来のミランの4-2-3-1における右SBの役割と大差ありません。
ボール運びの起点となり、前方のアタッカー(主に右サイド、ボランチ、トップ下もとい右シャドー)と協同しながらチャンスシーンを作り出していく事が求められるわけですね。

――参考1:この試合「前半」におけるミランの攻撃時の平均ポジション
対するウディネーゼは5-3-2の陣形を敷き、自陣深めに基本ラインを設定して手堅く守る得意の形で対抗。ミランにとっては苦手とする形であり、こういう相手に攻めあぐねるというのはもはやピオリ・ミランの定番シーンの1つです。
この点については、既に前節サレルニターナ戦のマッチレビュー記事内で詳述しているので多くは割愛しますが…。要するに「チームとしての統一された連動意識の乏しさ」や「現レギュラーアタッカー陣のプレースタイルのミスマッチ」により、「相手ゴール前でスペースを生み出し・利用する頻度と精度が低い」ことが主な原因として考えられます。

それでは具体的にこの試合を振り返っていくと…。今回の両者の攻防において、ミランにとって良い形を作り出せたシーンは確かにありました。例えばそれはベナセルが相手2トップの横のスペースに流れたときです。

――シーン1:ベナセルからカルルにパス
ベナセルがこの辺に入ってカルルをプッシュアップし、前方へと移動させることによって相手の守備の基準点をずらすことが期待できます。そして、相手が対応してくることで生じたスペースを利用することで、チャンスが作り易くなるわけですね。

――シーン2:ベナセルがサイド方向に流れ、カルル(画面外)がプッシュアップ。これにより相手左WBを引き付ける。それと同時に相手の注意がサイドに向けられたところで、ティアウからライン間のブラヒムに鋭い縦パスが入る

――その後の場面。ブラヒムからサイド前方のサレマへと展開。そこには左CBがカバーに入るも、サレマの方が優位で仕掛けられる状況

――その後の場面。サレマがドリブルで仕掛け縦への突破を試みる。躱されかけた相手CBはたまらず手を使って止め、イエローを受けた
また、今回のウディネーゼ戦で特筆すべき点として「イブラの存在」が挙げられます。
実に1年2カ月ぶりとなる先発出場を果たしたイブラは前半、右サイドからの前進に際して積極的に顔を出して崩しの局面に絡んでいきました。

――シーン3:レオンとカルルが裏のスペースを狙い、相手最終ラインを牽制。一方、イブラはベナセル・ブラヒムと協同してライン間を利用する

――その後の場面。フリーでボールを受けたイブラが前を向き、レオンにパスを出して最終ラインをアタックする

――その後の場面。イブラのパスはカットされるも、レオンとカルルがそのこぼれ球を拾う。もしここでイブラにパスを通せていれば決定機になり得た
一方、イブラが右サイドに顔を出すことで空く中央前線のスペースにはレオンが積極的に侵入。持ち前のスピードやロングボールの処理能力の高さを活かし、一度ならずチャンスを作り出しました。

――シーン4:イブラが右サイドに流れてパス回しに参加。その間にレオンが最前線に侵入し、タイミング良く裏のスペースを突いてイブラからロングパスを引き出す

――その後の場面。レオンはエリア内でしっかりとボールキープ。その間に走り込んできたサレマにボールを預け、サレマはワンタッチでバイタルに走りんだブラヒムにパス。惜しい形を作り出した
チームとしての継続的な連動性やゴール前でのプレー精度といった部分に依然として問題を抱えつつも、上記のように右サイドでの局所的な数的優位の形成や、縦のダイナミズムに優れた選手が裏のスペースを狙うといった要素自体はポジティブなものがありましたし、決定機には至らずともいくつか惜しい形を作り出すことに成功しています。
すると43分には裏に抜け出したレオンがPKを誘発。そのチャンスを一度はイブラがフイにするも、PKの蹴り直しが認められた結果、2度目のチャンスで豪快にネットへ突き刺してゴールを奪います。
これによりイブラはセリエA最年長ゴール記録を更新。ミランにとってこの試合で唯一明確に良かった点ですね。
続く後半において、ミランはイブラを始めとする各選手の立ち位置にいくつか修正を施します。

――参考2:この試合「後半」におけるミランの攻撃時の平均ポジション
例えばイブラは最前線に張るようになり、レオンは左サイドを強く意識する位置へ。前半の平均ポジション(「参考1」)と比較すると、右寄りだった全体のバランスを戻す意図が窺えました。
それではこれらの変更による影響を具体的に見ていくと…。まずイブラはボールタッチ数が激減。最前線に残っていても彼にボールが届かず、その存在感は一気に希薄になりました。

――参考3:この試合「前半」におけるイブラのボールタッチの回数及びポジション。ボールタッチ数は27回を記録

――参考4:この試合「後半」におけるイブラのボールタッチの回数及びポジション。76分に交代するまでに記録したボールタッチ数はわずか3回であり、内2つはキックオフと失点後のリスタート時のもの。
また、ベナセルについても中央の狭いスペースでボールを貰おうとする動きが増えた一方、先述した相手2トップ脇に降りてボールを引き出す動きが大きく減少。

――シーン5:ボールを持つカルルだが、有効なパスコースが無い
先のイブラの変化と合わせ、右サイドからのボール前進が滞る結果になっています。

――シーン6:ここではトナーリが気を利かせて右サイドにまで流れてくることで、相手左インサイドハーフに対して数的優位を作ってボールを前進させる

――その後の場面。カルルからトナーリへとボールが渡るが、イブラは最前線に張り、ブラヒムは狙うべきスペースに移動できていないため中央方向へのダイアゴナルなパスコースが無い
他方、左サイドではレオンがドリブルで仕掛ける回数こそ増えましたが散発的に過ぎず、同SBバロトゥーレとのシナジーもほとんど期待できないため、別段チームパフォーマンスが上がったわけでもありません。
そもそも組織の中でレオンのドリブルを活かすなら、右からボールを運んだ後に左サイドへスムーズに展開するなどして彼がドリブルで仕掛けやすい状況をチームとして積極的に作り出す必要があるでしょうが、そういった意識もいつもの如く希薄。またレオン自身がフリーダムな動きを好むといっても、彼が光り輝くシチュエーションというのは限られているわけで、なぜいつまでも非効率的な動きを許容しているのかも疑問です。
さて。攻めあぐねるミランは64分、ベナセルとサレマに代えてクルニッチとレビッチを投入。これにより表記上は「4-2-3-1」と従来の形に戻したようですが、肝心なのは具体的なメカニズムです。
実際のところミラン(もといピオリ)は上記問題点の解決に着手すらできず、交代後にむざむざ3失点目の流れを作り出すボールロストを引き起こしています。

――シーン7:クルニッチとレビッチを投入したミランだが、攻撃時のボトムの基本陣形は変わらない。

――その後の場面。何の工夫もなくカルルからサイドのレビッチへとボールが渡るが、迎撃態勢の整っているウディネーゼがボールを奪いにかかる

――その後の場面。案の定ボールを奪われ、ウディネーゼがカウンターに移行。この流れからFK、延いては3失点目に繋がった
前半も決定機をほとんど作れていない状況でしたから、何かしらの戦術的修正を加えること自体に文句はありません。
しかし、前半に見られたいくつかのポジティブ要素をなくしておきながら、それに代わる具体策を何ら見出せないようでは差し引きマイナスですし、場当たり的で合理性に欠ける采配だと言わざるを得ませんね。
ウディネーゼ3-1ミラン
(※前編の内容も含めての雑感となります)
スタメン選考・戦術・試合中の采配…それらすべてに疑問符が付くある意味すごい試合でした。僕の中で文句なしの暫定「今季ワースト試合」です(チームパフォーマンス的な意味で)。
振り返れば昨季も第17節のウディネーゼ戦が個人的ワースト試合で、その時はマッチレビューすら書きませんでしたね。
ウディネーゼというコンセプトのハッキリしているクラブ相手に毎年これだけ苦戦するというのは、自チームの弱点を自ら公表しているようなものです。ピオリはしきりに「対戦相手」を考慮に入れた戦術・システム構築の重要性を口にしており、それには全く以て同感ですが、そのことがピッチ上に反映されない現状には不信感しか覚えません。
果たしてここらがピオリの限界なのか…その答えは4月以降に持ち越しです。攻撃面はアレでも守備面はこれまで度々立て直してきているため、まずは今回も同様の仕事が期待されますね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。

【守備の問題点まとめ】ウディネーゼ対ミランその1【2022-23シーズン・セリエA第27節】
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上掲の前編では守備面について振り返ったため、ここでは攻撃面について詳述していきます。
スタメン(再掲)

ベースフォーメーション:
ウディネーゼ「3-5-2」
ミラン「3-4-2-1」
ミランの基本陣形
ボール保持時のミランは、右CBのカルルが積極的に前方サイドへ位置取る形を基本にしており、これは従来のミランの4-2-3-1における右SBの役割と大差ありません。
ボール運びの起点となり、前方のアタッカー(主に右サイド、ボランチ、トップ下もとい右シャドー)と協同しながらチャンスシーンを作り出していく事が求められるわけですね。

――参考1:この試合「前半」におけるミランの攻撃時の平均ポジション
対するウディネーゼは5-3-2の陣形を敷き、自陣深めに基本ラインを設定して手堅く守る得意の形で対抗。ミランにとっては苦手とする形であり、こういう相手に攻めあぐねるというのはもはやピオリ・ミランの定番シーンの1つです。
この点については、既に前節サレルニターナ戦のマッチレビュー記事内で詳述しているので多くは割愛しますが…。要するに「チームとしての統一された連動意識の乏しさ」や「現レギュラーアタッカー陣のプレースタイルのミスマッチ」により、「相手ゴール前でスペースを生み出し・利用する頻度と精度が低い」ことが主な原因として考えられます。

【崩しの局面におけるクオリティ不足について】ミラン対サレルニターナ【2022-23シーズン・セリエA第26節】
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それでは具体的にこの試合を振り返っていくと…。今回の両者の攻防において、ミランにとって良い形を作り出せたシーンは確かにありました。例えばそれはベナセルが相手2トップの横のスペースに流れたときです。

――シーン1:ベナセルからカルルにパス
ベナセルがこの辺に入ってカルルをプッシュアップし、前方へと移動させることによって相手の守備の基準点をずらすことが期待できます。そして、相手が対応してくることで生じたスペースを利用することで、チャンスが作り易くなるわけですね。

――シーン2:ベナセルがサイド方向に流れ、カルル(画面外)がプッシュアップ。これにより相手左WBを引き付ける。それと同時に相手の注意がサイドに向けられたところで、ティアウからライン間のブラヒムに鋭い縦パスが入る

――その後の場面。ブラヒムからサイド前方のサレマへと展開。そこには左CBがカバーに入るも、サレマの方が優位で仕掛けられる状況

――その後の場面。サレマがドリブルで仕掛け縦への突破を試みる。躱されかけた相手CBはたまらず手を使って止め、イエローを受けた
イブラ効果
また、今回のウディネーゼ戦で特筆すべき点として「イブラの存在」が挙げられます。
実に1年2カ月ぶりとなる先発出場を果たしたイブラは前半、右サイドからの前進に際して積極的に顔を出して崩しの局面に絡んでいきました。

――シーン3:レオンとカルルが裏のスペースを狙い、相手最終ラインを牽制。一方、イブラはベナセル・ブラヒムと協同してライン間を利用する

――その後の場面。フリーでボールを受けたイブラが前を向き、レオンにパスを出して最終ラインをアタックする

――その後の場面。イブラのパスはカットされるも、レオンとカルルがそのこぼれ球を拾う。もしここでイブラにパスを通せていれば決定機になり得た
一方、イブラが右サイドに顔を出すことで空く中央前線のスペースにはレオンが積極的に侵入。持ち前のスピードやロングボールの処理能力の高さを活かし、一度ならずチャンスを作り出しました。

――シーン4:イブラが右サイドに流れてパス回しに参加。その間にレオンが最前線に侵入し、タイミング良く裏のスペースを突いてイブラからロングパスを引き出す

――その後の場面。レオンはエリア内でしっかりとボールキープ。その間に走り込んできたサレマにボールを預け、サレマはワンタッチでバイタルに走りんだブラヒムにパス。惜しい形を作り出した
チームとしての継続的な連動性やゴール前でのプレー精度といった部分に依然として問題を抱えつつも、上記のように右サイドでの局所的な数的優位の形成や、縦のダイナミズムに優れた選手が裏のスペースを狙うといった要素自体はポジティブなものがありましたし、決定機には至らずともいくつか惜しい形を作り出すことに成功しています。
すると43分には裏に抜け出したレオンがPKを誘発。そのチャンスを一度はイブラがフイにするも、PKの蹴り直しが認められた結果、2度目のチャンスで豪快にネットへ突き刺してゴールを奪います。
これによりイブラはセリエA最年長ゴール記録を更新。ミランにとってこの試合で唯一明確に良かった点ですね。
後半の怪
続く後半において、ミランはイブラを始めとする各選手の立ち位置にいくつか修正を施します。

――参考2:この試合「後半」におけるミランの攻撃時の平均ポジション
例えばイブラは最前線に張るようになり、レオンは左サイドを強く意識する位置へ。前半の平均ポジション(「参考1」)と比較すると、右寄りだった全体のバランスを戻す意図が窺えました。
それではこれらの変更による影響を具体的に見ていくと…。まずイブラはボールタッチ数が激減。最前線に残っていても彼にボールが届かず、その存在感は一気に希薄になりました。

――参考3:この試合「前半」におけるイブラのボールタッチの回数及びポジション。ボールタッチ数は27回を記録

――参考4:この試合「後半」におけるイブラのボールタッチの回数及びポジション。76分に交代するまでに記録したボールタッチ数はわずか3回であり、内2つはキックオフと失点後のリスタート時のもの。
また、ベナセルについても中央の狭いスペースでボールを貰おうとする動きが増えた一方、先述した相手2トップ脇に降りてボールを引き出す動きが大きく減少。

――シーン5:ボールを持つカルルだが、有効なパスコースが無い
先のイブラの変化と合わせ、右サイドからのボール前進が滞る結果になっています。

――シーン6:ここではトナーリが気を利かせて右サイドにまで流れてくることで、相手左インサイドハーフに対して数的優位を作ってボールを前進させる

――その後の場面。カルルからトナーリへとボールが渡るが、イブラは最前線に張り、ブラヒムは狙うべきスペースに移動できていないため中央方向へのダイアゴナルなパスコースが無い
他方、左サイドではレオンがドリブルで仕掛ける回数こそ増えましたが散発的に過ぎず、同SBバロトゥーレとのシナジーもほとんど期待できないため、別段チームパフォーマンスが上がったわけでもありません。
そもそも組織の中でレオンのドリブルを活かすなら、右からボールを運んだ後に左サイドへスムーズに展開するなどして彼がドリブルで仕掛けやすい状況をチームとして積極的に作り出す必要があるでしょうが、そういった意識もいつもの如く希薄。またレオン自身がフリーダムな動きを好むといっても、彼が光り輝くシチュエーションというのは限られているわけで、なぜいつまでも非効率的な動きを許容しているのかも疑問です。
さて。攻めあぐねるミランは64分、ベナセルとサレマに代えてクルニッチとレビッチを投入。これにより表記上は「4-2-3-1」と従来の形に戻したようですが、肝心なのは具体的なメカニズムです。
実際のところミラン(もといピオリ)は上記問題点の解決に着手すらできず、交代後にむざむざ3失点目の流れを作り出すボールロストを引き起こしています。

――シーン7:クルニッチとレビッチを投入したミランだが、攻撃時のボトムの基本陣形は変わらない。

――その後の場面。何の工夫もなくカルルからサイドのレビッチへとボールが渡るが、迎撃態勢の整っているウディネーゼがボールを奪いにかかる

――その後の場面。案の定ボールを奪われ、ウディネーゼがカウンターに移行。この流れからFK、延いては3失点目に繋がった
前半も決定機をほとんど作れていない状況でしたから、何かしらの戦術的修正を加えること自体に文句はありません。
しかし、前半に見られたいくつかのポジティブ要素をなくしておきながら、それに代わる具体策を何ら見出せないようでは差し引きマイナスですし、場当たり的で合理性に欠ける采配だと言わざるを得ませんね。
ウディネーゼ3-1ミラン
雑感
(※前編の内容も含めての雑感となります)
スタメン選考・戦術・試合中の采配…それらすべてに疑問符が付くある意味すごい試合でした。僕の中で文句なしの暫定「今季ワースト試合」です(チームパフォーマンス的な意味で)。
振り返れば昨季も第17節のウディネーゼ戦が個人的ワースト試合で、その時はマッチレビューすら書きませんでしたね。
ウディネーゼというコンセプトのハッキリしているクラブ相手に毎年これだけ苦戦するというのは、自チームの弱点を自ら公表しているようなものです。ピオリはしきりに「対戦相手」を考慮に入れた戦術・システム構築の重要性を口にしており、それには全く以て同感ですが、そのことがピッチ上に反映されない現状には不信感しか覚えません。
果たしてここらがピオリの限界なのか…その答えは4月以降に持ち越しです。攻撃面はアレでも守備面はこれまで度々立て直してきているため、まずは今回も同様の仕事が期待されますね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。