【崩しの局面におけるクオリティ不足について】ミラン対サレルニターナ【2022-23シーズン・セリエA第26節】
この試合におけるミランの守備については前回の記事「失点を生んだ最終ラインの連携・集中力不足について~サレルニターナ戦~」で触れたため、この記事では攻撃面について振り返っていきたいと思います。
スタメン

ベースフォーメーション:
ミラン「3-4-2-1」
サレルニターナ「3-4-2-1」
ミランのビルドアップ
サレルニターナは基本、ミランのビルドアップに対して受け身の姿勢を取ります。序盤には何度かプレッシングを仕掛ける素振りも見せましたが、GKメニャンを含む後方からのボール回しに対してファーストプレッシャーを中々かけられず、自陣側へリトリートしていくシーンが目立ちました。
対するミランはベナセル、クルニッチのダブルボランチが中心となってボールを前進させていきます。
というのもサレルニターナは主にミドルゾーンに深めにラインを設定しましたが、相手の前線がミランのCBとダブルボランチに対して上手く制限をかけられず、中央で時間とスペースが与えられやすい状況です。そこで彼ら2人がボールを持ち、積極的にライン間へと縦パスを差し込んでいきます。

――シーン1:プレッシャーが緩いため容易に前を向けたクルニッチから、前線のレオンに縦パスが通った
この点に関し、右CBのカルルが後方での数的優位を活かしつつ、積極的に高い位置を取って前線のアタッカーと絡んでいきました。

――シーン2:中盤のスペースへとクルニッチがドリブルを開始。それと同時にカルルが攻め上がる

――ブラヒムがクルニッチからパスを受け、カルルと共に攻め上がっていった
クロスボール多用
問題なくボールを前進させることがミランでしたが、そうした状況をある程度織り込み済みであったはずのサレルニターナは自陣深くで守備を固めて抵抗してきます。
そこで、ミランとしてはライン間にボールを送り込んだ後に素早く相手最終ラインをアタックするいつもの形(速攻)の他、この試合では主に右サイドからクロスボールを多用してチャンスメイクを図りました。

――シーン3:クロスに備える人数を出来る限り増やす意図が窺えたミラン。ここではクルニッチが勢いよくエリア内中央へ飛び出し、ベナセルからのクロスに反応した
普段のミランはクロスの多いチームでなく、1試合平均で「16本」となっていますが、この試合では「31本」のクロスを使用。その内19本は前半だけで記録したという事で、試合の入りからクロスボールを積極的に活用することを想定していたのではないかと推察されますね。
そしてこういう状況で恩恵を受けやすいのが、ボックス内でのクロス対応に長けたジルーです。彼は46分にCKをヘディングで合わせ、ネットを揺らすことに成功しています。
崩しのクオリティ不足
上述の通り先制点を獲得できたミランでしたが、一方で効果的なチャンスメイクを行えていたかというとそうでもありません。
前半のシュート数「14本」の内、枠内をとらえたのはゴールに繋がったジルーのヘディング1つのみ。相手を押し込むまでは出来ても、サレルニターナの(ゴール前の)守備組織を崩すには至らないシーンが多く、スペースのない状況で打った強引なシュートは得てしてブロックされたり枠外へ飛んだりしてしまうわけですね。
「引いた相手を崩せない」というピオリ・ミランの課題は今に始まった話ではありませんが、折角なのでここで改めて具体的に言及しておこうと思います。
ゴール前での相手の組織的守備を崩す際、「相手の最終ラインにギャップを作り出し、それにより生じたスペースを利用する」という作業は極めて重要です。例えばサイドにボールを展開して相手の最終ラインを横に広げ、その隙間のスペースを狙うなどですね。相手が5バックであれば、WB-CB間・左右CB-中央CB間のスペースが狙い目となり、そこからニアゾーン(相手ペナルティエリア内のハーフスペース)へとボールを運ぶというのが有効な方法の一つといえます。
しかしながら、ミランはそうしたスペースを利用する意識がチームとして希薄です。一例を挙げましょう。

――シーン4:相手を押し込んだ状況から右サイドでボールを回すミラン。ここで左WBをサイドに引っ張り出し、相手WB-CB間にスペースを作り出した。しかし、当該スペースを認識していないブラヒムはボールへと近づく

――その後の場面。サレマから当該スペースへとパスが通せるタイミングだが、そこで受けようとする選手が誰もいない
このようにスペースを作り出しても当該スペースを使う受け手がいなかったり、逆に当該スペースに動いても出し手がパスを出さなかったりといったように、チームとして攻撃の狙いが定まっていないように見受けられる場面が度々生じていますね。
また、これには現レギュラーアタッカー陣の能力も関係しているように思われます。例えばブラヒムは相手最終ラインのギャップを突くのが得意でなく、ダイナミズムに欠けるジルーもそうしたプレーを不得手としているため、当該スペースを効果的に利用できる状況や手段がかなり限られてしまう、と。

――シーン5:ここではカルルが相手左WBと対峙し、サレマが外に流れる動きで相手左CBを引っ張る。これにより左CB-中央CB間にスペースが生まれるが、ジルーはそのスペースへは動かず足元で貰おうとする
この点に関し、オリギは技術的には一見期待できそうですがインテリジェンスが低いため、実際のところ継続的な貢献にはまるで期待できません。この試合でも1-1となった62分にイブラ、デ・ケテラーレと同時に投入され勝ち越しゴールを求められるも、彼はチャンスを外すだけでなく以下のような溜息を禁じ得ないプレー選択を見せています。

――シーン6:後半のカウンターの場面。ここでオリギに期待されたのはニアゾーンへ鋭く走り込み、テオから縦へのパスコースを作り出すことだった。それにより自身のマーカー(マッツォッキ)やゴール前のDF(ギェンベール)を引き付けられれば、テオからバイタルエリアに走り込むデ・ケテラーレへ絶好のパスを送れる可能性もあった

――しかし、実際のオリギはスピードを緩めながら、周囲の状況を全く把握せずエリア手前でテオからのリターンを待つ。これにより奥にいるデ・ケテラーレへのパスコースを見事に潰す

――その後の場面。テオの中央へのパスはまんまとマッツォッキにカットされた
ところで、今プレシーズン中にはヤシン・アドリという選手が相手最終ラインのギャップを突くプレーからチャンスを量産していたわけですが、一体全体なぜ彼はこういう試合展開の時でさえも起用されないのでしょうか。

ヤシン・アドリのプレースタイルについて~「タメ」と「飛び出し」~
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結局のところ、この試合は追加点を奪えず1-1のまま試合終了。途中投入されたイブラがボックス内で流石の存在感を見せ、ミランは強引にチャンスを作り出したものの、GKオチョアの牙城を崩し切ることが出来ませんでした。
ミラン1-1サレルニターナ
雑感
今回の相手のパフォーマンスに対して1点しか取れないというのは正直かなり深刻だと思いますが、かといってこれが別に「想定外」でもないというのが何とも残念でなりません。
崩しの局面におけるパフォーマンスについては個人レベル(アタッカー陣のクオリティ)・組織レベル(ボールを運ぶ目的地の明確化、その実現のための連動した動き)双方において昨季からロクな改善が見られず、後者に至ってはレオンのサイドからの効果的なドリブル突破が減った分だけ最近は悪化しているとさえ感じます。
こうした課題を解決するためにアドリやデ・ケテラーレを獲ったんじゃないかと今シーズンが始まってもう10回近くは書いていると思いますが…。彼らに至らない点があるとしても、それを果たして「彼らのチームへの適応力が十分でないから」といった理由でシンプルに片づけていいものなのかどうか、ピッチ上におけるアタッカー陣のプレー延いてはチームパフォーマンスを見るに疑念を抱かざるを得ません。有り体に言って「監督とコーチ等の指導能力・方針にも少なからず問題があるのではないか?」と感じます。
何にせよ…曲がりなりにも得点チャンスを作っていたとしても、チームとしての更なるレベルアップや安定した結果を得るためにはより質の高い機能的なプレーを継続的に行う必要がありますし、依然として改善が強く求められる局面であることは確かです。
現状を見るに改善にはあまり期待出来ないというのが正直な印象ですが、何とか頑張って欲しいですね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。