【明暗を分けたドリブルの有無】フィオレンティーナ対ミラン【2022-23シーズン・セリエA第25節】
スタメン

ベースフォーメーション:
フィオレンティーナ「4-3-3」
ミラン「3-4-1-2」
ヴィオラの積極性
まずはミランの攻撃(ボール保持)とフィオレンティーナの守備について。
ヴィオラは立ち上がりからインテンシティ高くプレッシングを仕掛け、ミランのビルドアップを妨害していきます。
ポイントは中盤の選手も頻繁に前へと圧力をかけるなどして、ミランの(メニャンを含む)最終ラインに強いプレッシャーを与えた事です。

――シーン1:ここではアムラバトが最前線のプレッシングに加わり、前からの圧力を強める。同時にカブラルはメニャンへのバックパスに備える。焦ったトモリはトラップミスし、ボールを外に出してしまった
そんなヴィオラの積極性に面食らったミランはミスを連発します。11分にはティアウがなんでもない横パスを自陣深くでトラップミスし、そのボールを拾った相手をPA前で倒して警告。前半序盤にCBがイエローを貰う苦しい展開となりました。
なお前回のアタランタ戦だと、ミランはサイドに開く右CBカルルにボールを預けて前進させる形でポゼッションを安定させましたが、今回はそのカルルに対し対面のゴンザレスがしっかりとマークしているため中々預けられず。こういう時にもう少し3CBに動きのレパートリーがあればといった所ですが…今のところ練度は高くありませんね。

――シーン2:サイドに開くカルル(赤)に対してゴンザレスがしっかりとマーク。パスを出させない

――その後の場面。ミランはトナーリとトモリで左サイドに数的優位を作る。同時にデ・ケテラーレが下がってきたため、ここでは彼を経由して左サイドからボールを持ち運ぶことも可能だったが、実際はメニャンから前線へのロングボールが選択された
そこでミランにとっての主な攻め所は、相手のMFが前に出てきた際に生じる背後のスペースとなります。

――シーン3:ここでは前に出たボナベントゥーラの背後にトナーリが入り込み、トモリからパスを引き出して速攻を開始した
後はシンプルにロングボールを放り込んでいく形で対抗。しかしながらこれらは後述する2トップの相性の悪さなどもあり効果的とはいえず、チャンスは散発的なモノに止まりました。
前線の組み合わせ
此度の拙攻に関し、前線の選手たちの組み合わせにも問題がありました。
例えばこの試合で久々の先発チャンスを得たレビッチは、個人のプレー精度の低さも然ることながら、相方であるジルーとの相性の悪さを度々露呈します。

――シーン4:トモリのインターセプトからボールは一気に前線のジルーへ。ここでレビッチ(画面外)は裏のスペースへと走り込む

――その後の場面。しかしジルーは横にワンタッチで叩く。レビッチの狙いと噛み合わず、ボールロストとなった
レビッチの良さを引き出すには、自身の動き出しに合わせて良質なパスを供給してくれる選手(ミラン加入1・2年目におけるイブラなど)の存在や、ダイナミズムに優れた選手との連係プレー(テオ、トナーリとのワンツーなど)が求められますが、ジルーはそのいずれにも当てはまりません。
またジルーからしても、彼の得意とするワンタッチでの落としやゴール前での良さを活かすためには、周囲にボール運びに優れたドリブラー(レオン、最低でもブラヒム)を配する必要があります。しかし2人共この試合を欠場しており、代役となったレビッチや今のデケテラーレにその類のプレーはあまり期待できません(デケテラーレは頑張っていましたが)。
正直、レオンがいないのにジルーにこだわる理由が僕には分からず、それならレビッチとデ・ケテラーレにアドリを組み合わせたトリデンテとかの方がよほど期待できたんじゃないかと思うんですけどね。
まぁいきなり急造ユニットで臨んでも上手くいくかは未知数ですし、そもそもアドリを毛嫌いしているピオリが試すはずもないので無意味な仮定ですが…。そう考えると、この試合はレオンとブラヒムの欠場が決まった時点で詰んでいたのかもしれません。
ヴィオラのドリブル活用
続いてはミランの守備とヴィオラの攻撃について。
普段通り前からのアグレッシブなプレッシングを志向するミランに対し、ヴィオラはドリブルを積極的に織り交ぜたポゼッションで対抗していきます。
そして、同局面にてポイントになったエリアがヴィオラの右サイド(ミラン側左サイド)でした。
具体的に見ていくと…。ヴィオラは右インサイドハーフのボナベントゥーラを高めの位置に配し、右ウイングのイコネをサイドに張らせてテオを牽制する形を基本とすることで、主に右SBドドからの持ち運びを企図していたように見受けられました。

――参考1:この試合前半におけるフィオレンティーナ選手の攻撃時の平均ポジション
これに対し、ミランは基本的にトナーリが中央からサイドに出る形でドドに対応。ボナベントゥーラのマークを背後の選手(主にトモリ、場合によってテオ)に受け渡し、トナーリがドドにプレッシャーをかけることでビルドアップの妨害を図ります。

――シーン5:ボールを受けたドドにトナーリがプレッシャーをかけ、その背後のボナベントゥーラにはトモリが縦スライド対応
このような両者の攻防に際し、鍵となったのが「ドリブル」でした。
ヴィオラとしてはミランによるマークが煩わしいものの、トナーリやトモリを所定のポジションから大きく動かすことは出来ている状況です。つまり、彼らのマークをドリブル等で剥がせれば一気にチャンスを生み出し得る、と。また、ミランにとってはこのようにかなり動的に相手と噛み合わせる分だけ対応が一手遅れがちになり、後手に回る場面がどうしても出やすくなります。
そこで、ヴィオラはミランの守備組織を崩すべく積極的に仕掛けてきました。

――先ほどの続きの場面。ドドからボールを受けたボナベントゥーラが反転してトモリを躱し、速攻を開始

――その後の場面。裏に抜けたイコネにスルーパスを通し、惜しいシーンを作り出した
勝手が分かってきたヴィオラは後半になると、ミランの選手たちを振り回すことで同サイドを完全に攻略し、2点を奪うことに成功します。

――シーン6:1点目に繋がったPK獲得までの流れについて。まずサイドチェンジによりドドにボールを預け、トナーリを中央からサイドに誘い出す

――その後の場面。ここではアムラバトがサイドに流れてボールを受け、テオを引っ張り出してから前方のイコネにパス。これによりトモリ(画面外)とサイドで1対1の状況を作り出す

――イコネがトモリを躱し、ドリブルで一気にPA内に侵入。その後追いすがるトモリに倒されPKを獲得した

――シーン7:2点目の流れについて。例によってドドがボールを持ってトナーリを釣り出し、前方のイコネにパス。イコネは(トナーリの釣り出しによって生じた)中盤のスペースへとドリブルで運び、自身をマークするテオを引っ張り出す

――その後、イコネは左サイドに展開。この後テオは帰陣をサボり、所定のポジションにスペースが空くことになる

――その後の場面。今度はゴンザレスが左サイドから中央へとドリブルで持ち運ぶことで対面のカルルを引っ張り出しつつ、中盤でフリーとなっているイコネにボールを渡す

――その後の場面。テオの空けたスペースにドドが走り込んでスルーパスを受ける。最終ラインをズタズタにされたミランは残り2枚(ティアウ、トモリ)で最後の抵抗を試みるも、受け手の鋭い動きと出し手の正確なクロスによって敢えなく撃沈された
対するミランは83分という遅すぎる時間帯にようやく投入されたアドリの素晴らしいパスを起点に、テオが1点を返すものの既に試合時間は95分のため焼け石に水。スコア以上の完敗でした。
フィオレンティーナ2-1ミラン
雑感
致し方ない側面は多少なりあれど、戦術も交代策もモチベーションも何もかも不満の残る非常に腹立たしい試合でした。監督の意識が早くもイングランドに向かっており、それが選手にも伝播したのでしょうか。
何にせよ、この試合を「犠牲」にした以上は来るスパーズ戦に必勝態勢で臨んでもらいたいですし、再び生じた疑念を払拭するパフォーマンスを見せて欲しいと思います。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。