議論を引き起こした2つのピオリ采配について
戦術的ミス
例えば、ミランのレジェンド監督であるサッキは「インテルにとって、この試合のミランは対戦相手ではなく練習相手に過ぎなかった」とコメント。更に「ミランはプレッシングをする気配が無く、ラインの押し上げもなく、マークは曖昧…。誤った戦術的選択(5バック)によってあらゆるプレーコンセプトが消失してしまった」と痛烈に批判しています。
かつてゾーンプレスにより革命を起こしたサッキの戦術観からして、「アグレッシブな振る舞い」を忘れてしまっていたこの試合(前半)のミランに否定的な反応を示すのは当然です。システム(5バック)選択自体が悪かったわけではないと個人的に思いますが、今回の受動的過ぎる振る舞いを規定する一因にはなっていたため、今回に関してはその点が槍玉に挙げられても致し方ないでしょう。
また、ミランの元カピターノである解説者のアンブロジーニは試合後に以下のように語っています。
ピオリ・ミランは常に自らのコンセプトを貫いてきただけに、これは極めて複雑な瞬間だ。(今回のシステム変更により)彼らは悪い流れを食い止めることが出来ると考えていたようだが、前半を観れば明らかだろう。このチームはこのタイプのサッカーをするようには作られていない。
今回のアイディアは直近の試合で見られた困難な状況を抑制することに向けられていた。だが前半は明らかにインテルが優勢で、ミランはコンパクトさを維持して対抗したかったが、実際のところインテルには多くの利用可能なスペースがあった。後半になりミランからはプライドを感じたが、それでもオナナ(相手ゴール前)にはあまり近づけなかったね
この点についての個人的見解というのは先日のマッチレビュー記事で述べた通りで、自陣側のスペース管理を重視する方針には合理性があったものの、そこに具体的な手法が伴っていなかったのは要反省点だと思います。
そこで今回のシステムをベースに立て直しを図るとしても、メリハリのある組織的プレッシングの確立には今一度着手する必要があるでしょうね。
レオンのベンチスタート
この試合では上記の戦術面の他に、レオンをスタメンから外すという選択も物議をかもしました。
一部報道によると、レオンがベンチスタートとなった理由の一つは「フィットネスの問題」にあると伝えられているわけですが、単なるコンディション不良によるものだけでなく戦術的・技術的な観点からベンチスタートになったと推察されます。要するに自陣での守備を重視する方針の一環として、守備意識の低いレオンを外したわけですね。
しかしながら彼を外したことで、ミランがポジティブトランジションにおいてボールを運ぶ手段は大きく制限されました。ジルーは元より独力でボールを運べませんし、レオンの代わりにスタメンに抜擢されたオリギも何もできず。更に自陣からのドリブル突破が期待されてのメシアスのインサイドハーフ起用も不発に終わり、インテルのボール支配に拍車をかける結果となっています。
そもそもビッグネームであるレオンを2試合連続でベンチに置くという選択自体がハイリスクであり、結果が出ない場合に大きな批判にさらされることは避けられません。
ピオリの決断には説得力がない。チーム最高の選手であるレオンを外し、代わりにガッビアやメシアスのようなプレーヤーを起用すると決めているなら何かが間違っている。チームの復活のために3-5-2に変更し、レオンを外す?私にはこれら全てがとても非論理的に思える――リッカルド・トレヴィサーニ(ジャーナリスト)
現時点だとレオンは決して万能な選手というわけではないですし、戦術的要請次第ではスタメンから外れるといったことも起こり得るでしょう。
しかしながら、今のミランの戦力事情からするとレオンを持て余す余裕なんかないですし、再び彼が輝けるように心身のコンディション向上と戦術的調整に取り組むのはマストといえますね。
攻守両面で課題が山積しているため大変ですが、まずは何か1つでも復調のキッカケを掴みたいところです。