ミラン、4-3-3採用の可能性について~中盤の期待と懸念~
しかし、どうやら前節ラツィオ戦の時点で怪我も負っていたようです。したがって、来るミラノダービーの欠場も濃厚となっています。
ベナセルは左ハムストリングに問題を抱えており、今のところ5日のダービー戦に出場できる可能性は非常に低いと思われる――Di Marzio
今季のチームにおけるベナセルの重要性については、ラツィオ戦まで彼が全試合に出場していたことから明らかです。
ただでさえ悲惨なチーム状況の中、また一つ頭痛の種が生じてしまいました。
4-3-3の採用?
一方、キープレーヤーの欠場が確実視されるものの、ピオリ監督の「戦術調整を施す」という方針に変更はないようです。
ピオリは4-2-3-1を捨てて4―3―3に変更し、守備の局面を強化するつもりのようだ――GdS
「中盤色の濃い選手を3人起用する」と表現した方が変更の意図を掴みやすいかもしれません。要するにミドルサードのスペース管理を重視して中盤エリアを強化することで、最終ラインが晒されないよう厚くカバーするといった感じのはずです。
最近のミランはアグレッシブな戦術とレオンの役割により生じる背後のリスクを後方がカバーし切れず、脆弱なバックライン(+ゴールキーパー)が何度となく破られ失点を喫しているため、上記の変更はマストといえますね。
続いて中盤3枚の選択肢を見ていくと、インテル戦はベナセル欠場を前提として「トナーリ、クルニッチ、ポベガ、ヴランクス」の4人。そしてトナーリとクルニッチは確定として、残る1枠はおそらくポベガでしょう。ヴランクスはピオリに全くといっていいほど信用されておらず、ここ数試合は出番もないですしね。
先述の狙いを実現させるためには、彼ら3人のパフォーマンスが極めて重要になってきます。中盤の枚数を増やそうが個々のパフォーマンスが低ければ効果は薄いですし、彼らにはまず何よりも守備局面におけるインテンシティの高さが強く求められますね。
懸念材料
一方、上記の変更についていくつか懸念材料が挙げられます。
一つは「相手アンカーへの対処法」です。
ここ数年のインテル戦でピオリは相手アンカー(ブロゾビッチ)を封じることに腐心しており、その一環として中盤色の濃いケシエやクルニッチを頻繁にトップ下に起用し、ブロゾビッチに張り付かせていました。
しかし、仮に先述のシステムを採用し中盤ラインの維持や最終ラインのカバーを優先する場合には、アンカーへのマークが緩くなることは避けられないでしょう。
この点については、昨年末に行われた15節のフィオレンティーナ戦が参考になります。

【勝てばよかろうもん?】ミラン対フィオレンティーナ【2022-23シーズン・セリエA第15節】
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この試合でミランはトップ下(に入ったと表記されている)クルニッチをミドルサードでの守備時に左サイドに落とし、中盤ラインを厚くすることを選択しました。
一方、これにより相手アンカーのアムラバトへのマークが緩くなり、彼を中継点とする相手のパス回しを妨害することが難しくなった、と。
そうならないためには中盤3枚が相手アンカーに対する警戒を怠らず、いざボールが入った時には素早く対応して自由なプレーを許さないことが肝要になります。また、同時にCF(おそらくジルーが起用されるでしょう)が献身的なカバーシャドーやプレスバックによりアンカーへのパスコースを閉じることが期待されますね(確かジルーは先のW杯で似たような役割をこなしていた試合があったはず)。
もう一つの懸念材料として、ここでは「ポベガ(orヴランクス)の守備能力」を挙げたいと思います。
ポベガには持ち前の走力やプレス強度を活かした守備貢献が期待されるわけですが、それと同時にポジショニング等々に課題があり、その結果の一つとして「ファールを与えやすい」という悪癖があります。

――参考1:今季のセリエAにおけるポベガの1試合平均ファール数(赤枠。3.78回)。同ポジションの平均ファール数は「1.40回」であり、ポベガの数値はリーグワースト1位
ヴランクスについては出番がないため判断材料が少ないですが、少なくとも守備が抜群に安定している選手でないことは確かだと思います。
彼らの守備が不安視される根拠として、「あの」年明けのローマ戦を思い出せば十分でしょう。

【零れ落ちた勝利】ミラン対ローマ【2022-23シーズン・セリエA第17節】
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ポベガとヴランクスはチームがリードしている中で途中出場し、安定したプレーによって試合を締める役割が期待されました。
しかしポベガは21分のプレー時間中に3度のファールを行い、ローマが得意とするセットプレーの機会を多く献上。ヴランクスも必要性の低い状況で相手に厳しく当たりに行った結果ファールとなり、そこからのセットプレーによってローマの同点弾が生まれました。
今のミランが守備崩壊している理由の一つに「セットプレー守備の脆さ」があり、改善の兆しが見えない以上はセットプレー守備の機会自体を減らすことが重要です。その観点からするとポベガの先発起用は合理的とはいえないかもしれません。
とは言えベナセルの復帰が叶わなければ致し方ない選考ですし、ここはリスク面に目を瞑りつつプラスの効果が大きく出ることを期待するしかなさそうです。
戦術的な変更策は浮上すれど、残念ながら強い説得力には欠けてしまう現状。
フロントが適切な補強(や補強費用捻出のために必要な放出)を怠ると同時に、コーチ陣が夏の新戦力を主力として組み込めなかったツケを払っている格好ですが、果たして今回の戦術的変更は吉と出るか凶と出るか…。注目したいですね。