【怒りのガチレビュー】ミラン対サッスオーロ【2022-23シーズン・セリエA第20節】
スタメン

ベースフォーメーション:
ミラン「4-2-3-1」
サッスオーロ「4-2-3-1」
メンバー入れ替えの効果
この試合ではガッビア、クルニッチ、デ・ケテラーレ、レビッチと最近出番の少なかったメンバーを多数先発させたミラン。
前者2人は欠場者の代役、デ・ケテラーレはブラヒムに代わってという事で妥当な人選だと思いますが、レオンの代わりにレビッチ先発というのは少々驚きでありました。
レビッチ起用の狙いとして一つ考えられるのは「守備時のインテンシティの向上」です。
というのも、レオンよりもレビッチの方がプレス強度、帰陣の頻度や速さ、ネガティブトランジション時の反応等々において優れています。そんなレビッチを使って「前線の守備強度」を上げることで、崩壊中である守備の立て直しの一助となることを期待したのでしょう。
実際、その効果というのは少なからず見られています。

――シーン1:レビッチのクロスは相手DFにブロックされボールがこぼれるも、そこへレビッチが鋭く反応

――その後の場面。レビッチが球際を制し、二次攻撃に繋げる。最終的にその流れからジルーがネットを揺らした(※オフサイドにより惜しくも取り消し)
一方、レオンがいないことで殊にポジティブトランジション(カウンター)の破壊力が低下することは避けられませんが、サッスオーロはネガトラ対応が甘いのでレオン不在でもカウンターは十分通じると判断したのではないでしょうか。実際、デ・ケテラーレのプレーなどを起点としてボールを運び、何度か相手を押し込むことは出来ていましたしね。
またサッスオーロは自陣ゴール前の守備も固いわけではないため、ミランとしては取りあえずエリア外からでもジルーにボールを放り込むだけで惜しい形を作り出すことに成功。すると24分にはカラブリアのクロスにジルーが合わせ、1点を奪いました。
被カウンター
さて。ポジティブな内容はここまでです。
最終スコアは「2-5」で大敗という事で、結局のところミランはボコボコにされました。そこで、いくつか焦点を絞って振り返りましょう。
1失点目は「被カウンター」からでした。
ミランは前半のボール保持時、主に右サイドに人数をかけて攻め込む形を志向。レビッチがジルーと2トップの関係を組むことが多く、したがって左サイドのスペースへはテオが駆け上がる形を多用します。

――シーン2:右サイドに人数をかけるミラン。一方、左サイドに高めの位置にテオがポジショニング
これによりリスクとなるのは「テオが駆け上がることにより生じる背後のスペース」です。もし右サイドにて嫌な形でボールを失い、ネガトラ時に上手くカウンタープレスがかからなければ逆サイドの手薄なスペースを利用され、ピンチに陥る可能性が高まる、と。
この点、例によってオンザボール時にほとんど役に立たないサレマがボールロストを連発し、カウンターの逆起点となりました。

――シーン3:フラッテージがサレマからボールを奪いカウンターを開始。一方、逆サイドからはベラルディがフリーで走り込んでくる。
19分には同様の形からサッスオーロがカウンターを発動。今度は逆サイドのベラルディにしっかりとボールが展開され、そのベラルディの完璧なパスを受けたデフレルが冷静に流し込んでサッスオーロが1点目を獲得します。

――シーン4:サレマからボールを奪ったサッスオーロは、右サイドのベラルディに展開。カウンターを開始する

――その後の場面。ベラルディはそのままゴール前まで持ち運び、ファーサイドのデフレルへラストパスを供給した
ちなみに、ここ最近のミランの被カウンター時の脆さはしっかり相手チームに把握されていたようで、サッスオーロ監督のディオニージは試合後に以下のように語っています。
どうやってミランを苦しめたかって?ミランが多くの選手を攻撃に送り込み、ライン間を使って攻めてくるのを知っていたからね。そこで我々はカウンターアタックで彼らを困難に陥れようとしたんだよ
右サイドに人数をかけた攻め、及びその機能性の低さについては既に以前の記事で言及済みですが、この効率の悪い攻撃を一体いつまで続けるんでしょうかね。
被プレス回避
2失点目は「プレスを回避されてからの被速攻」から生まれています。
レオンとレビッチの入れ替えもあり個の守備強度こそ多少は上げられたように見えたミランですが、組織としては何ら明確な改善の跡は見られません。
そして今季のサッスオーロは下位に沈んではいるものの、前監督デゼルビの下で鍛え上げられた選手やポゼッション能力があります。よって、今のミランのプレッシングを掻い潜るのは難しい話ではないでしょう。

――シーン5:ハイプレスによりボール奪取を図るミランだが、サッスオーロは相手左サイドアタッカー(レビッチ)がCBに狙いを付けた動きの逆を突き、右SBホジェリオに展開。ホジェリオはフリーで前方に持ち出す
プレスを掻い潜ってしまえば、後は今のミランの脆弱なバックライン+αを崩すだけです。

――その後の場面。中盤エリアで3対2の状況を作り出すサッスオーロ。

――その後の場面。ボールはホジェリオからフラッテージ、トラオレへと渡る。ここでガッビアは縦スライドにより数的不利をカバーしたかったが、スライドを躊躇したことでトラオレはフリーでボールを持つことが出来た。その後、前線のベラルディと攻め上がったフラッテージの連携からゴールが決まった
この点、試合を通して一度もプレッシングを破られないことなど滅多にないわけで、いざ破られた際には後ろのメンバーの耐久力がチームの守備成績に大きく関わってくるといえます。
そして強い時のミランにはバックライン(とそれを支える中盤)にも耐久力がありましたし、そんな彼らの安定感がよりアグレッシブなプレッシングへとチームを駆り立てていたはずです。
しかし、残念ながら今のミランはそれらとは真逆の状況にあるといえます。
ピオリがアグレッシブなサッカーを標榜しており、そうしたコンセプトを不振に陥った今だからこそ前面に押し出していこうとする考えは部分的に理解できますが、チーム状況的に無理なモノは無理です、
現状はバックラインのメンバーが極力晒されることのない状況を作り出すことが肝要ですし、そのためには第1プレッシャーラインを下げたり、中盤の枚数を増やしたりなどしてコンパクトな陣形の維持に努める必要があるのではないでしょうか。
ところで構造上数的不利に陥りやすい上述(シーン5)の中盤エリアですが、本来はCBトモリが縦スライドして当該エリアをカバーするといったように戦術的に非常に重要な役割を担っています。
今季はミスが目立つため叩かれがちであるものの、それでも彼の存在は重要です。ガッビアでは(少なくとも現システム・戦術において)トモリの代わりは難しい気がしますね。
最後に4失点目についても言及しておきます。
後半に入り、デ・ケテラーレをレオンと交代させたことで前線からの圧力を高める一方、中盤エリアのケアが相対的に緩くなったミラン。すると開始から数十秒後に早速その悪影響を被ることになりました。

――シーン6:左サイド側へ圧力をかけるミラン。中盤エリアはサレマが大きく内に絞ることでカバーしようとする。しかし、それにより逆サイドの選手はフリーとなり、ここでは左SBのキリアコプロスへと展開される
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――その後の場面。サレマがキリアコプロスへの対応に引っ張り出されたことで中盤は数的不利に。そこで、中盤でパスを受けたトラオレに対しカルルが縦スライドで一手遅れて対応しカバーする

――その後の場面。カルルの縦スライドにより生じた最終ラインのスペースへとスルーパスが送られた
連鎖的に生じるスペースを利用された結果、脆いバックラインが晒されて大ピンチに。最後はカラブリアがロリエンテを倒してPKを献上し、サッスオーロが4点目を獲得、と。
前半終了時点で1-3という事で、後半開始から勝負に出るのは分かりますが…それなら得点・アシストにほとんど期待できないサレマをピッチに残すのは中途半端ですし、心情的にデ・ケテラーレを早々に代えるのも納得しかねます。
結局のところ、ミランの反撃は偶然性の高いオリギのスーパーゴール一発に止まり、逆にサッスオーロには79分に5点目も奪われる始末。ホームで無様な敗戦を喫しました。
ミラン2-5サッスオーロ
雑感
今回言いたいことは上記3つのトピック内であらかた書き終えているので、最後に一つだけ。
試合後にジルーも述べていましたが、次節のインテル戦はターニングポイントになり得る絶好の一戦です。
今のままロクな戦術的調整を行わずに臨むならもはやこれまででしょう。しかし何かポジティブな変化を起こし、勢いを取り戻せれば十分に挽回は可能だと思います。
ダービー戦に向け、先述した守備面の整備くらいは流石にそろそろお願いしたいですね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。