レッチェ戦・インテル戦に見るミランの問題点【後編】

レッチェ戦・インテル戦に見るミランの問題点【前編】
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今回はスーペルコッパのインテル戦をメインに振り返りつつ、レッチェ戦やこれまでの試合なども適宜参考材料としていきます。
なお、例によってネガティブな内容が続くため、閲覧前に予めご了承ください。

ベースフォーメーション:
インテル「3-5-2」
ミラン「4-2-3-1」
前回のおさらい
前回は「左サイドの構造上の弱所」及びその弱所を本来カバーするべきバックラインの「低パフォーマンス」をメイントピックとして扱いましたが、これらの問題はインテル戦においても引き続き露呈しています。前回のおさらいとして、まず初めに言及しておきましょう。
――参考1:インテル戦ハイライト。1失点目(43秒~)、2失点目(1分13秒~)、3失点目(2分23秒~)
1失点目のシーンは正に象徴的です。ミラン側右サイドからのインテルスローインに始まり、ボールはミラン側左サイドのダルミアンへと渡ります。
ここでレオンのプレスバックが遅く、ダルミアンはフリーでボールを持ち出すことが出来ました。
そのためトナーリが急いでダルミアンへと寄せに行きますが間に合わず、最終ラインではテオが対面のバレッラを離したためトモリが裏(バレッラ)とライン間(ジェコ)の間で板挟み状態となり、ジェコ&バレッラによる華麗な連携プレーを許します。同時にオフサイドを取り損ねたケアーの帰陣も遅れ、最後は逆サイドから飛び込んだディ・マルコに悠々と流し込まれてフィニッシュ、と。
2失点目は2トップ(ラウタロ&ジェコ)の連携からまんまと最終ラインのギャップを突かれ、そのカバーに入ったトナーリもあっさりと躱されジェコによる華麗なゴールを許しました。
3失点目については、トモリが擁護の余地がないほどにラウタロに完全に個で敗れ、キーパーとの1対1を許した挙句に華麗なゴールを決められました。
思えばコンテがインテルの監督時代からそうですが、インテルに敗れる時というのは大抵が完敗で、組織レベルでも個人レベルでもボコられることが多い気がします(例としてはルカクvsロマニョーリというマッチアップを頻繁に作られた時期など)。逆に戦術的に拮抗した試合では競り勝てる傾向があるような…。
だから何だって話ですが、まぁとにかくこの試合も現チームの至らない点を洗い出しされる結果となりました。
右サイドの攻撃力不足
おさらいはこの辺にして。ミランの抱える主問題として今回取り上げたいのは「右サイドの攻撃力不足」です。
積極的なプレッシングを志向してきたインテルに対し、ミランは主に左サイドから活路を見出します。同サイドのユニットにCFのジルー、トップ下のブラヒムが顔を出し、相手のプレスを回避して何度か惜しい形を作り出しました。

――シーン1:ハイプレスを仕掛けるインテルに対し、ミランはロングボールで対抗。そここでトナーリが前方に走り出し、前線の選択肢を増やす

――その後の場面。ロングボールのターゲットとなったレオンはブラヒムに落とし、そのブラヒムは走り込んできたトナーリへワンタッチパス。速攻を開始した
中でもトナーリの縦へのダイナミズムはアクセントになり、瞬間的に数的有利を作りながらボール前進を行う上で小さくない貢献を果たしています。
このように部分的には良いところを見せた左サイドに対し、沈黙したといっても過言ではなかったのが右サイドです。
相手のプレッシングに対する回避地点として機能せず、相手を押し込んだ後も危険なシュートチャンスが作り出されることはほとんどありませんでした。

――シーン2:速攻から生まれたチャンスシーン。メシアスがクロスを送るも、ボールは明後日の方向へ飛んでいく
確かにこうした問題は今に始まった話ではありませんが、深刻度はより高まっているといえます。
というのもシーズン前の時点では、加入2シーズン目となるメシアスのパフォーマンス向上やサレマの成長といった部分に期待が懸かりました。しかし右サイドでの攻撃を主導するべき両者はいずれもその期待に応えることができておらず、もはや今後の著しい改善にも疑問符が付きます。
この点について、「チャンスメイク」に関する平均データを参照してみても、サレマは今季のセリエAアタッカーを対象とする「得点期待値+アシスト期待値の合算」で暫定ワーストの数値を記録(平均0.16)。メシアスもわずかにそれを上回る(平均0.18)のみという有様です。

――参考2:今シーズンにおけるサレマのゴール期待値・アシスト期待値の平均、及びセリエAの攻撃的MF、ウインガーの選手を対象としたパーセンタイル

――参考3:今シーズンにおけるメシアスのゴール期待値・アシスト期待値の平均、及びセリエAの攻撃的MF、ウインガーの選手を対象としたパーセンタイル
チャンスメイクの解釈を広げて「SCA(シュートチャンスの創出)」、すなわち「シュートに繋がった2つのアクションを行った平均回数」で見ても、セリエAアタッカーの平均が「3.52回」であるのに対しサレマは「2.54回」、メシアスは「3.33回」と平均未満に止まっています。
昨季までの成績を考慮するとサレマはもう少し改善できるはずですが、かといって例年通りなら「平均~やや下」程度に収まる可能性が高く、いずれにせよ物足りなさは否めません。
被カウンター時のリスク
現在の右サイドアタッカーのレギュラー陣にはファイナルサードで活きる明確な武器がなく(特にサレマ)、これが先述した「右サイドの攻撃力不足」の要因の一つといえます。
また、そのことは「被カウンター時のリスク」にも関わっているのではないでしょうか。
というのも、最近のミランは個の力を補うべく、ポジショナルな攻撃においてブラヒムを右ハーフスペースに置いてカラブリアやサレマ(orメシアス)とユニットを組ませ、3人を軸とする流動的な攻撃を志向する形が多く見られます。
その一環としてカラブリアを積極的に前方へと攻め上がらせるわけですが、それにより生じる「背後のスペース」というのが一つのリスクになり得る、と。
リスクを生じさせるからには相応のリターンを得たいところですが、サレマ(メシアス)がそのようなカラブリアの動きを十分にサポートし、機能的な崩しを継続的に実現できているかは疑問の余地があります。またカラブリアにしてもファイナルサードで特筆すべき何かしらのプレー選択を持っているかは微妙なところで、リスクに見合う実入りが得られていないというのが現状だと思います(レッチェ戦の2点目のようにゴールに繋がる場合ももちろんあるので、一概に否定はできませんが)。
そしてリスク面の方に目を向けると、先日のレッチェは前述したスペースを意識的に狙っていたように見受けられました。

――シーン3:ベナセルのサイドチェンジのパスをレッチェがカット。ここでミランは右サイド前方に人数をかけているため、その背後のスペースが狙い所となり得る

――その後の場面。当該スペースに走り込んだディ・フランチェスコに絶好のパスが通り、レッチェが決定機を迎えた
カラブリアは怪我耐性に優れているとは言い難く、そんな彼に長距離の背走を強いるような状況は出来る限り避けたいわけですが…。その意味でもここ数試合は非常に望ましくない内容だったといえそうです。
まとめ
左サイドアタッカーと比べ、右サイドアタッカーには守備面で実質的な貢献が強く求められている点を考慮すべきでしょうが、考慮してもなお今の彼らのクオリティが要求水準に達しているかは疑問の余地があります。
解決策としては、本音を言えば(2年前から)新戦力補強によるグレードアップに期待したいものの、現有メンバーが無駄に多くフロントも出費に消極的な状況を考慮しますと、現有戦力の中から解決策を探る方向性が妥当でしょう。
この点、これまではサレマ、メシアスのレギュラー陣に加えてブラヒム、レビッチ、クルニッチ、そして先日はオリギが右サイドで試されるなど試行錯誤している様が窺えますが、いずれも明確な手ごたえは掴めていません。
現有戦力ではミランの右サイドの戦術的要請に十分に応えられる選手はいないと感じますし、チーム事情や対戦相手に応じて彼らを使い分け、それぞれの強みを活かしながら対応していくしかなさそうです。