レッチェ戦・インテル戦に見るミランの問題点【前編】
第17節のローマ戦で2点のリードを得ながらアディショナルタイムに追いつかれる失態を演じてから、コッパ・イタリアではトリノに敗れ、続くレッチェ戦では2-2のドロー。そして来るインテルとのスーペルコッパでは0-3の完敗を喫し、今シーズンで最も獲得の可能性のあったタイトルを逃しています。
トリノ戦に関しては私生活が忙しく、またスタメンを見た時点でチームの機能不全を予測したため僕は観戦を見送ったのですが、レッチェ戦・インテル戦に関してはもちろん視聴しました。
彼らはミランの弱所というのを把握し、自信と確信をもって臨んでいたように見受けられましたし、それぞれ結果も出しています(試合展開的に、欲を言えばレッチェも勝ちたかったでしょうが)。
そこで今回は、件のレッチェ戦とインテル戦を参考にしながら、今のミランが抱えている問題を見ていきたいと思います(※前編となる今回はレッチェ戦が対象)
なお、記事の趣旨から今回はミランにとってネガティブな内容となるため、閲覧前に予めご了承ください。

ベースフォーメーション:
レッチェ「4-3-3」
ミラン「4-2-3-1」
試合展開
最初に試合内容を大雑把に振り返ると、レッチェは前半3分にカルルのプレゼントパスからショートカウンターを発動して幸先良く先制に成功。続く23分にはCKから追加点をゲットしています。
後半になってミランに追いつかれはしたものの、作り出したチャンスシーンの数はかなり多く、彼らに決定力があれば3点以上を獲ることは十分にあり得ました。
そして、レッチェがそのように多くのチャンスを作れた背景としては、やはりミランの弱所を認識していたことが考えられます。
構造上の弱所
そのポイントの一つとして今回取り上げるのはミランの左サイドです。
というのも、同サイドにてミランが抱える問題は「レオンの守備時の役割」であり、守備意識が低い彼の役割をいかように規定し、チームの継続的かつ組織的なプレッシングを実現するかが悩みのタネになっている、と。
この点、ミランはレオンに「対面のCBに対してプレス&マークを行うこと」を第一のタスクとし、CF(ジルー)と2トップの関係を組む形が多くなっています。

――参考1:レッチェ戦前半におけるミランの守備時の平均ポジション
こうした傾向はハイプレス時に限らずチームが自陣に下がった場合にも見られており、レオンが自陣深くに戻るのは同サイドの相手SBや3バックのCBがオーバーラップしてきたときにそのパスコースを消すといった局面など限定的です。
このようにレオンの守備負担を軽減する分、時として負担が重くのしかかるのがその後方の選手たちになります。具体的にはトナーリ(※レッチェ戦ではポベガ)、テオ、トモリが筆頭ですね。
そしてレッチェはミランの左サイドを攻略すべく、まず右SBのジャンドレイに積極的に高めの位置を取らせて対面のテオを牽制します。それに応じて右ウイングのストレフェッツァが内寄りのポジションを取り、ボールを引き出していく、と。

――シーン1:右CBバシロットがバックパスを受けると、ジャンドレイが前方へと進出。同時にストレフェッツァは中央ライン間でバシロットから縦パスを引き出す

――その後の場面。縦パスにはテオが反応するも奪い切れず、右サイド高い位置を取ったジャンドレイへとスルーパスが送られた
また、彼らに加えて右インサイドハーフのブリンが絡むと、同サイドでは3対2(ポベガ&テオ)の数的有利が生じやすくなります。そうならないようにトモリやブラヒム(トップ下)が頑張ってカバーを行うわけですが、一手遅れがちになるためどうしても危険なシーンは生まれてしまうと。

――シーン2:サイドで3対2を作られたミラン。ブリンからストレフェッツァへとパスが通るが、ポベガは裏に抜け出したジャンドレイを警戒してストレフェッツァへの対応が少し遅れる

――その後の場面。ストレフェッツァはコロンボとのワンツーで中央に切り込み、シュートを放った
一方、リスタート時などレオンが中盤ラインに入って守備を行うシーンもありますが、それでも彼個人のプレス強度が低く、また散発的であるため却って組織バランスを崩すリスクがあります。

――シーン3:サイドに開いてパスを受けるブリンと、ライン間で待つストレフェッツァ。ここでピオリ監督は対面のレオンに「プレスに行け!」と指示を出すが対応が遅れる。レオンの反応が遅れた事で、ポベガも中途半端な対応を見せる。そのためブリンは余裕を持ってストレフェッツァにパスを通す

――その後の場面。ストレフェッツァがフリーで前を向き、危険な状況を作り出した
バックラインの低パフォーマンス
このような構造的な問題に加え、最近は「選手個々の低パフォーマンス」というのも明らかに失点増の原因になっています。
この点に関して特筆すべきはテオです。このレッチェ戦では開始早々にOGを献上するだけでなく、あらゆる場面で緩慢な対応に終始。技術的な理由により前半だけで交代という、これまでならばあり得ない事態に陥っています。

――シーン4:スローイン時、右サイド深くに投げ込むレッチェ。ここでテオは中途半端なクリアを行い、こぼれ球がPA内に転がる

――その後の場面。こぼれ球を拾ったのはストレフェッツァ。それからCKを獲得し、2点目に繋がった
加えて、バックラインの統率力不足ももはや看過することは出来ません。
周囲に気を配り積極的かつ的確な指示を出せるディフェンスリーダー、すなわちメニャンやケアーの不在が殊に自陣ゴール前での混乱を生んでいることが推察され、またメニャンの代役であるタタルシャヌの不安定なハイボール対応がDF陣に余計なプレッシャーやストレスを与えているように見受けられます。
Tomori che vorrebbe mangiarsi Tătărușanupic.twitter.com/DUsJoPHTHt
— M4rk (@M4rkPhilips) January 8, 2023
――参考2:ローマ戦の一場面。タタルシャヌのクロス対応に怒りを見せるトモリ
その結果、セットプレーを含むクロスからの失点に歯止めがかからず、失点が止まらないことで選手たちにかかるプレッシャーが増大し、不用意なプレー等から失点…といった悪循環に陥っているのではないでしょうか。
まとめ
構造上の弱所をこれまでは主に個人がカバーしてきたミランですが、キープレーヤーの不在や低調、対戦相手による対策などの原因が重なり、今のままで安定したパフォーマンスを発揮するのは相当難しくなっています。
メニャンの復帰やテオの復調が果たされればある程度改善されると思いますが(思いたい)、その2人が揃っていた今季前半戦序盤も失点は続いていたわけで、根本的な解決にはならないかもしれません。
それなら「レオンにもっと守備をやらせればどうか」とも考えられますが、1トップに独力でボールを運べないジルーを置く以上、ポジティブトランジションを重要視したときにレオンを高めの位置に残らせたい意図は理解できます。またカウンター時の威力を減らしてまで、守備が苦手なレオンに守らせるというのは合理的とはいえません。
それに今回は守備にフォーカスを当てたためレオンに対してはネガティブな内容になりましたが、彼が今のミランの攻撃において欠かせない戦力であることは確かでしょう。
レビッチにかつてのような突破力はもはや期待できず、テオが絶不調の今、その重要性は更に高まっているといえます。
以上を踏まえると、前述の構造的弱所は許容した上でそれを「組織でカバーする」というのが無難な方向性であるといえ、その方法の一つが「クルニッチ(中盤色の濃い選手)のトップ下起用」です。
これは昨季の最終盤戦に実際に行って効果を実証しているものであり、要するにスペースを埋めるのが上手いクルニッチに左サイドをカバーさせるという方法ですね。

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ピオリ監督がデ・ケテラーレやアドリをチームに組み込めず、崩し(ポジショナルな攻撃)のクオリティアップに失敗している現状。クルニッチの起用で組織のバランスを取り戻すことを真剣に考慮しているのではないかと感じますし、おそらくクルニッチが戦線復帰したら実際に試すのではないかと僕は予想しています。
(※後編に続く)