【戦略上の失策】クレモネーゼ対ミラン【2022-23シーズン・セリエA第14節】
今回はセリエA第14節、クレモネーゼ対ミランのマッチレビューを行いたいと思います。
スタメン

ベースフォーメーション:
クレモネーゼ「3-5-2」
ミラン「3-4-1-2」
前節のスペツィア戦の結果は「1-2」の勝利、一方で今回のクレモネーゼ戦のスコアは「0-0」のドロー。
「同じシステムを採用し、かつ受動的なアプローチで臨んできた下位チーム」という点で直近2試合の相手は共通していましたが、試合結果は異なるものとなりました。
両試合の違いを端的に説明し得るものとして、まずは「ゴール期待値(xG)」を挙げたいと思います。

――参考1
前回のスペツィア戦におけるミランのxGは「3.41」。決定機を量産していたことからしても納得がいく数値であります。
対するスペツィアのxGも「1.41」という事で、こちらは比較的少ない数ではあったものの、機を見た攻め込みから質の高いチャンスシーンを複数回作り出していました。結果としても1点を挙げていますね。

――参考2
一方のクレモネーゼ戦。ミランのxGは「1.30」と前節から大きく低下しています。
そして、対するクレモネーゼのxGも「0.19」と最低クラスの数値を記録。
こうした2つのデータの比較から、「前節と比べてミランはピンチに陥るシーンこそ減ったが、同時にチャンスシーンも大きく減ってしまった」と言うことが可能です。
それでは次に、そうした違いを生じさせた原因が何であったかについて見ていきます。
まずは対戦相手の違いという観点から見ていくと、クレモネーゼはスペツィアと異なり集中した守備を披露しました。
上掲のスペツィア戦マッチレビュー記事にて言及した通り、スペツィアはボールホルダーに対する寄せが甘く、かといってスペースを封鎖することもできずにミランに自由なプレーを許しました(前半)。その結果ベナセルやブラヒム等が躍動し、多くのチャンスを作り出すことに成功しています。
一方のクレモネーゼは、(おそらく)スペツィア以上に低いライン設定でこの試合に臨み、背後のスペースを縮小。それに加えて前線の2枚もしっかりと守備を行い、中盤ブロックの手前のスペースを自由に使われるリスクを軽減します。
そして、前進してきたミランの選手や楔のパスに対してはしっかりとプレッシャーをかけることで、危険なスペースへの侵入を阻んでいく、と。
続いてはミランについてです。
前節のスペツィア戦にてミランは右サイド重視の攻撃を志向。カルル、クルニッチ、メシアスから成る右サイドのユニットにブラヒムが積極的に絡んでいく事で、同サイドからボールを前進させていきました。

――参考3:スペツィア戦前半におけるミラン選手の平均ポジション
一方、今節は左ボランチのトナーリが攻撃時に高めに位置してバランスを取ることで、左サイドからボールを前進させていく形もよく見られています。

――参考4:クレモネーゼ戦前半におけるミラン選手の平均ポジション
別にこれ自体は良いも悪いも無く、実際にミランは左サイド起点の攻撃からチャンスを作ることにも成功しています。

――シーン1
同サイドユニットのレビッチ、バロ、トナーリが相手PA手前でパスを繋いでから手薄な逆サイドに展開。ボールを受けたブラヒムが右サイドに張るメシアスへとパスを送り、メシアスが1対1の状況で縦に仕掛けてエリア内へとドリブル突破します。

――その後の場面。
その後、メシアスのクロスにブラヒムが合わせるも枠外へ…というシーンです。
ここでは両サイドレーンを担当した選手(バロ、メシアス)がボール回しに絡み、幅を使った攻撃で決定機を作り出すことが出来ました。今回のようにゴール前を固める相手に対し、サイドからの仕掛けは突破口の一つといえますね。
しかしながら、そうした攻撃を効果的に行うには打開力のあるサイドアタッカーが不可欠です。この点、メシアスはギリ及第点としてもバロには大きな疑問符が付きます。
実際、上記のようにバロがチャンスに絡むシーンというのは少なく、前方にスペースの多くないこの試合でバロに出来るプレーというのは非常に限定的でした。
また、クレモネーゼのようなトリノ、スペツィア同様にロングボール主体の攻撃を行い、敵陣へと積極的にボールを送り込むチームを相手にする場合、重要視されるのは「セカンドボール回収からのトランジション」になります。
今回は(も)、「相手が守備陣形を整える前に如何にして攻め切るか」というのが得点を奪う上での重要ポイントだったはずですが、そうしたトランジションの局面にて絶対的な力を発揮するテオ、レオンがこの試合では不在(※レオンはベンチスタート)。
特にテオは後方からボールを一気に持ち運ぶ上でのキーパーソンですし、相手のロングボール主体の攻撃の関係上、自陣からのカウンター開始が多くなる今回のような試合では欠かせない存在といえました。
25分にはレビッチが相手からボールを奪い、直後に裏へ抜け出したオリギにスルーパスを通して決定機を演出しましたが、オリギが決めきれず。数少ないカウンターのチャンスをフイにしたミランはトランジションの局面においても不発に終わってしまいます。
そもそもの話をすれば、ミランが「引いて自陣を固める相手」を苦手としているのは今に始まった話ではありません。
そしてそのような状況を改善すべく、今季のミランはアドリを迎え入れ、そして大枚はたいてデ・ケテラーレをも確保したはずです。
チームのパス回しに絡みながらゴール前にスペースを見出し、そこに飛び込むアドリの力はプレシーズン中に示されており、またデ・ケテラーレにしても、ゴール前の狭いスペースにパスを呼び込むセンスとフィジカルを持った選手であることをブルッヘ時代のCLで証明しているわけですからね。
優れたプレービジョンと技術を有する彼らが主体的に動いてスペースを生みだし、相手の固い守備ブロックを崩してチャンスを作り出すといのが今季のミランに期待される攻撃の形でした。
しかしながら、彼らのような新戦力をチームに組み込めずに昨季のメンバーをベースに戦えば、昨季と同じような相手を苦手とすることはある意味必然といえます。
もちろん、だからといってこの試合で「今の」彼らを(先発)起用すべきだったと断言はできません。
デ・ケテラーレはスランプに陥ってしまい、アドリもこれまでほとんど出番を与えられていない現状、ここで彼らを起用しても望み通りの効果が得られたかは疑問符が付きますしね。
ただし、今季ここまで彼らを持て余していることに関し、少なからずコーチ陣の起用方針やマネジメントに至らない点があったというのが僕の正直な印象です。
その意味でこの「戦略上の失策」というのを、此度の試合で勝ち点を取りこぼした原因の一つとして最後に挙げさせてもらいます。
クレモネーゼ0-0ミラン
引き分け上等とばかりに守備を固めるクレモネーゼを前に沈黙したミラン。
ミラン守備陣は手堅く守ってくれていただけに、攻撃陣の物足りなさが目立つ結果となりましたね…。
さて。ここまでネガティブな話題が続いたため、最後にこの試合で良かった点(選手)についても言及しておきましょう。
まずはティアウ。彼はミラン加入後初先発ながら手堅いパフォーマンスを披露。前途有望なプレーぶりだったかと思います。
そしてベナセル。先述の通りこの試合は前節よりも難しい環境下だったように見受けられましたが、冷静なボール供給を続けてくれました。
また、時間の経過と共に相手のマークが緩んでくると積極性を増し、裏に抜けたトナーリへの正確なスルーパスでチャンスも演出。今日も見事な活躍ぶりで、チームに欠かせない選手であることを示し続けていますね。
年内最後の公式戦となるフィオレンティーナとの一戦は今週末に行われます。
ここ2試合はフラストレーションの溜まる試合展開が続いているだけに、会心の勝利でもって2022年を締めくくって欲しいですね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
スタメン

ベースフォーメーション:
クレモネーゼ「3-5-2」
ミラン「3-4-1-2」
ゴール期待値
前節のスペツィア戦の結果は「1-2」の勝利、一方で今回のクレモネーゼ戦のスコアは「0-0」のドロー。
「同じシステムを採用し、かつ受動的なアプローチで臨んできた下位チーム」という点で直近2試合の相手は共通していましたが、試合結果は異なるものとなりました。
両試合の違いを端的に説明し得るものとして、まずは「ゴール期待値(xG)」を挙げたいと思います。

――参考1
前回のスペツィア戦におけるミランのxGは「3.41」。決定機を量産していたことからしても納得がいく数値であります。
対するスペツィアのxGも「1.41」という事で、こちらは比較的少ない数ではあったものの、機を見た攻め込みから質の高いチャンスシーンを複数回作り出していました。結果としても1点を挙げていますね。

――参考2
一方のクレモネーゼ戦。ミランのxGは「1.30」と前節から大きく低下しています。
そして、対するクレモネーゼのxGも「0.19」と最低クラスの数値を記録。
こうした2つのデータの比較から、「前節と比べてミランはピンチに陥るシーンこそ減ったが、同時にチャンスシーンも大きく減ってしまった」と言うことが可能です。
クレモネーゼの守備
それでは次に、そうした違いを生じさせた原因が何であったかについて見ていきます。
まずは対戦相手の違いという観点から見ていくと、クレモネーゼはスペツィアと異なり集中した守備を披露しました。
上掲のスペツィア戦マッチレビュー記事にて言及した通り、スペツィアはボールホルダーに対する寄せが甘く、かといってスペースを封鎖することもできずにミランに自由なプレーを許しました(前半)。その結果ベナセルやブラヒム等が躍動し、多くのチャンスを作り出すことに成功しています。
一方のクレモネーゼは、(おそらく)スペツィア以上に低いライン設定でこの試合に臨み、背後のスペースを縮小。それに加えて前線の2枚もしっかりと守備を行い、中盤ブロックの手前のスペースを自由に使われるリスクを軽減します。
そして、前進してきたミランの選手や楔のパスに対してはしっかりとプレッシャーをかけることで、危険なスペースへの侵入を阻んでいく、と。
ミランの拙攻
続いてはミランについてです。
前節のスペツィア戦にてミランは右サイド重視の攻撃を志向。カルル、クルニッチ、メシアスから成る右サイドのユニットにブラヒムが積極的に絡んでいく事で、同サイドからボールを前進させていきました。

――参考3:スペツィア戦前半におけるミラン選手の平均ポジション
一方、今節は左ボランチのトナーリが攻撃時に高めに位置してバランスを取ることで、左サイドからボールを前進させていく形もよく見られています。

――参考4:クレモネーゼ戦前半におけるミラン選手の平均ポジション
別にこれ自体は良いも悪いも無く、実際にミランは左サイド起点の攻撃からチャンスを作ることにも成功しています。
サイド攻撃の物足りなさ

――シーン1
同サイドユニットのレビッチ、バロ、トナーリが相手PA手前でパスを繋いでから手薄な逆サイドに展開。ボールを受けたブラヒムが右サイドに張るメシアスへとパスを送り、メシアスが1対1の状況で縦に仕掛けてエリア内へとドリブル突破します。

――その後の場面。
その後、メシアスのクロスにブラヒムが合わせるも枠外へ…というシーンです。
ここでは両サイドレーンを担当した選手(バロ、メシアス)がボール回しに絡み、幅を使った攻撃で決定機を作り出すことが出来ました。今回のようにゴール前を固める相手に対し、サイドからの仕掛けは突破口の一つといえますね。
しかしながら、そうした攻撃を効果的に行うには打開力のあるサイドアタッカーが不可欠です。この点、メシアスはギリ及第点としてもバロには大きな疑問符が付きます。
実際、上記のようにバロがチャンスに絡むシーンというのは少なく、前方にスペースの多くないこの試合でバロに出来るプレーというのは非常に限定的でした。
カウンターの不発
また、クレモネーゼのようなトリノ、スペツィア同様にロングボール主体の攻撃を行い、敵陣へと積極的にボールを送り込むチームを相手にする場合、重要視されるのは「セカンドボール回収からのトランジション」になります。
今回は(も)、「相手が守備陣形を整える前に如何にして攻め切るか」というのが得点を奪う上での重要ポイントだったはずですが、そうしたトランジションの局面にて絶対的な力を発揮するテオ、レオンがこの試合では不在(※レオンはベンチスタート)。
特にテオは後方からボールを一気に持ち運ぶ上でのキーパーソンですし、相手のロングボール主体の攻撃の関係上、自陣からのカウンター開始が多くなる今回のような試合では欠かせない存在といえました。
25分にはレビッチが相手からボールを奪い、直後に裏へ抜け出したオリギにスルーパスを通して決定機を演出しましたが、オリギが決めきれず。数少ないカウンターのチャンスをフイにしたミランはトランジションの局面においても不発に終わってしまいます。
戦略上の失策
そもそもの話をすれば、ミランが「引いて自陣を固める相手」を苦手としているのは今に始まった話ではありません。
そしてそのような状況を改善すべく、今季のミランはアドリを迎え入れ、そして大枚はたいてデ・ケテラーレをも確保したはずです。
チームのパス回しに絡みながらゴール前にスペースを見出し、そこに飛び込むアドリの力はプレシーズン中に示されており、またデ・ケテラーレにしても、ゴール前の狭いスペースにパスを呼び込むセンスとフィジカルを持った選手であることをブルッヘ時代のCLで証明しているわけですからね。
優れたプレービジョンと技術を有する彼らが主体的に動いてスペースを生みだし、相手の固い守備ブロックを崩してチャンスを作り出すといのが今季のミランに期待される攻撃の形でした。
しかしながら、彼らのような新戦力をチームに組み込めずに昨季のメンバーをベースに戦えば、昨季と同じような相手を苦手とすることはある意味必然といえます。
もちろん、だからといってこの試合で「今の」彼らを(先発)起用すべきだったと断言はできません。
デ・ケテラーレはスランプに陥ってしまい、アドリもこれまでほとんど出番を与えられていない現状、ここで彼らを起用しても望み通りの効果が得られたかは疑問符が付きますしね。
ただし、今季ここまで彼らを持て余していることに関し、少なからずコーチ陣の起用方針やマネジメントに至らない点があったというのが僕の正直な印象です。
その意味でこの「戦略上の失策」というのを、此度の試合で勝ち点を取りこぼした原因の一つとして最後に挙げさせてもらいます。
クレモネーゼ0-0ミラン
雑感
引き分け上等とばかりに守備を固めるクレモネーゼを前に沈黙したミラン。
ミラン守備陣は手堅く守ってくれていただけに、攻撃陣の物足りなさが目立つ結果となりましたね…。
さて。ここまでネガティブな話題が続いたため、最後にこの試合で良かった点(選手)についても言及しておきましょう。
まずはティアウ。彼はミラン加入後初先発ながら手堅いパフォーマンスを披露。前途有望なプレーぶりだったかと思います。
そしてベナセル。先述の通りこの試合は前節よりも難しい環境下だったように見受けられましたが、冷静なボール供給を続けてくれました。
また、時間の経過と共に相手のマークが緩んでくると積極性を増し、裏に抜けたトナーリへの正確なスルーパスでチャンスも演出。今日も見事な活躍ぶりで、チームに欠かせない選手であることを示し続けていますね。
年内最後の公式戦となるフィオレンティーナとの一戦は今週末に行われます。
ここ2試合はフラストレーションの溜まる試合展開が続いているだけに、会心の勝利でもって2022年を締めくくって欲しいですね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。