【「個性」が生んだ決勝点】ミラン対スペツィア【2022-23シーズン・セリエA第13節】

2022-23シーズン・試合スペツィア戦
今回はセリエA第13節、ミラン対スペツィアのマッチレビューを行いたいと思います。

スタメン

【22-23】ミラン対スペツィア_スタメン
ベースフォーメーション:
ミラン「4-2-3-1」
スペツィア「3-5-2」


前半の優勢


やはりというべきか、試合序盤から主導権を握ったのはホームのミランでした。

守備時のスペツィアが5-3-2(5-3-1-1)の陣形で消極的なミドルブロックを基本とするのに対し、ミランは3バック(カルル、ガッビア、トモリ)+2ボランチを軸にポゼッション。前回のザルツブルク戦同様、カルルを起点とする右サイドからのビルドアップを重視します。


【22-23】ミラン対スペツィア_戦術分析1
――シーン1:右サイドからボールを持ち運ぶカルル。ここでアグデロは、サイドに流れたクルニッチが気になって前に出られず。そこでカルルにはダニエルが寄せに行くが、これによりベナセルへのマークが甘くなる

この点に関し、5-3-2の「3と2の周辺のスペース・選択肢」にどう対応するかというのは同システム採用時に注目すべき点であるわけですが、スペツィアはそこの対応が緩慢といえました。


【22-23】ミラン対スペツィア_戦術分析2
――先ほどの続きの場面。ダニエルが寄せに来たことで、カルルはベナセルにパス。そこにはブラビアが対応するも寄せが遅く、この後ベナセルは逆サイドのスペースへと展開した

前線2枚が当該スペースを埋め切れず、中盤のスライド対応も遅れがちになった結果、当該スペースに位置するベナセルやクルニッチ、もしくはその周辺へ積極的に侵入するブラヒムを止めることが中々出来ず。
また中央経由の展開も許すなどして、全体を押し下げられる状況が続いてしまった、と。


【22-23】ミラン対スペツィア_戦術分析3
――シーン2:ブラヒムからフリーのクルニッチにバックパス。そこにはスペツィアの選手も順次対応していくが、逆サイド方向のベナセルへとパスを通された


中央エリアの支配力を高めることが出来たミランは、ボールを左右に動かしながらフィニッシュワークへと移行します。ここでのポイントは「相手の中盤3枚を動かしつつ、生じたスペースを利用すること」です。

というのも、ミランのパスコースを中々制限できないスペツィアは、特に中盤が前後左右に忙しなく対応に追われる状況が続きます。しかし中盤が3枚(かつ後方からも前線からもサポートが少ない状況)ですとどこかしらにスペースが生まれやすく、ミランとしてはそこを突いていく、と。
そうしたエリアを主戦場としたベナセル、ブラヒムが躍動したのはもちろん、カットインのスペースが生まれたメシアスも積極的に仕掛けていきました。


【22-23】ミラン対スペツィア_戦術分析4
――シーン3:テオが中央方向にドリブルで持ち運び、対面のWBと相手の中盤2枚を引き付けてからフリーのベナセルにパス。これによりライン間のブラヒムへのパスコースが生まれ、ベナセルから鋭い縦パスが入った

すると21分。ベナセルの見事な裏へのパスに反応したテオが、そのまま押し込みミランが先制に成功します。


【22-23】ミラン対スペツィア_戦術分析5
――シーン4:サイドでブラヒムがボールを持ってアグデロを引き付けつつ、メシアスと共に数的優位を作る。そして、ボールを受けたメシアスは中央のスペースへとドリブル開始


【22-23】ミラン対スペツィア_戦術分析6
――その後の場面。フリーのベナセルが前方に移動し、メシアスからパスを受ける


【22-23】ミラン対スペツィア_戦術分析7
――その後の場面。中盤からブラビアがスライド対応するも、十分な時間を得たブラヒムがテオに絶妙なパスを供給。アシストを記録した

このように見事な崩しから得点を奪えたミランでしたが、作り出したチャンスシーンの数を考えれば前半で2~3点決めなければなりませんでした。
もちろんこれについては、相手GKドロンゴフスキが非常に集中したパフォーマンスで多くのシュートを防いだという側面もありますが、自分たちのミスによる側面も決して小さくありません。
特にブラヒムはゴール前で多くのチャンスをフイにし、ファイナルサードでの精度に著しく欠けた昨季を想起させるパフォーマンスとなってしまいました(体は非常にキレていて積極的に仕掛けることが出来ていただけに、余計に最後の精度が悪目立ちする結果に)。


さて。一方の先制されたスペツィアは多少なりアグレッシブさを増してミランのビルドアップに制限をかけてきましたが、ボール運びの起点となるカルルを抑えようとすると中盤が空いてしまい、そこを通される形で三度危険なシーンに陥ります。


【22-23】ミラン対スペツィア_戦術分析8
――シーン5:ここではボールホルダーのカルルに対しアグデロが、近くのクルニッチに対しエクダルがそれぞれ対応。これによりダニエルはベナセルのマークに集中できるが、中盤のスペースを使われるリスクが生じる(※それを積極的にカバーしようとするDFもいない)。


【22-23】ミラン対スペツィア_戦術分析9
――その後の場面。カルルのロングボールをメシアスがワンタッチで中盤スペースに落とし、ブラヒムが拾うことに成功した

一方、攻撃に関してはロングボールから何度かミランを押し込み、少ないチャンスから質の高い決定機を創出。前半終了直後には右サイドを完璧に突破し、ゴール前にクロスを入れるもエンゾラが合わせ切れず。ミランとしては大ピンチでしたが、何とか事なきを得ました。


後半の劣勢


続く後半。ミランはイエローカードを貰っていたベナセルに代えてトナーリを投入。

後半最序盤こそトランジションから引き続きチャンスを作り出していったミランでしたが、徐々に流れが悪くなっていき、延いては失点を喫してしまいます。

この点に関し、失点までの一連の流れを振り返っていきましょう。まずは54分の被カウンターの場面となります。


【22-23】ミラン対スペツィア_戦術分析10
――シーン6:後方からのボールを収めるエンゾラと、それに対応するトモリ

スペツィアはビルドアップの局面においてもロングボールを多用することで、自陣でのボールロストを減らそうとしていたように思います。これによりミランとしても高い位置でのプレッシングの機会が減り、低い位置での守備を強いられることになりました。

またそうしたロングボール攻勢に際して、身体能力の高い前線のエンゾラはキーマンの1人だった印象です。上記のシーンはトランジションの局面ですが、彼がボールキープして味方の上がる時間を作り出し、その後は敵陣深い位置でスローインを獲得する(ミランを押し下げる)ことに成功しました。

そして57分には、エリア内に飛び込んだエクダルがクロスに頭で合わせて決定機を演出。
勢いに乗ったスペツィアは直後の相手ゴールキックに対し、高い位置からプレッシャーをかけてミランのビルドアップを妨害。


【22-23】ミラン対スペツィア_戦術分析11
――シーン7:ボールホルダーのタタルシャヌに対し寄せに行くダニエル

この点、タタルシャヌの不安定なボール配給がスペツィアの攻勢に拍車をかけたように思われます。


【22-23】ミラン対スペツィア_戦術分析12
――その後の場面。タタルシャヌからのロングボールはエクダルに弾き返される

ここでは中途半端な位置(中盤、それもブラヒムのいるエリア)へと蹴り込んだことであっさりとボールクリアされ、こぼれ球を拾われた結果ミランがファールを与えてしまう結果に。これにより再び自陣PAエリア内に押し込まれてしまう、と。

その後はFKからCKへとピンチは続き、ボールをクリアしたミランがカウンターへと繋ぐチャンスを得ますが上手くいきません。


【22-23】ミラン対スペツィア_戦術分析13
――シーン8:クリアボールをブラヒムが拾い、トナーリへバックパスするも合わず。スペツィア選手に拾われピンチに陥りかけるが、何とかスローインへ

すると59分。スローインのこぼれ球を再びクリアし切れずに相手に渡してしまい、左サイドに流れたダニエル・マルディーニへとパスが展開。そこからダニエルによる見事なゴールが生まれてスペツィアが同点に追いつきました。


【22-23】ミラン対スペツィア_戦術分析14
――シーン9:ブラヒムがこぼれ球を処理し切れず、ボールはそのままレツァに渡った


僕は「試合の流れ」という概念を個人的に凄く意識していまして、今回は正にその「流れ」に飲み込まれた結果の失点ではないかと感じています。上記のくどい説明はそれ故です。

思うに、最近のミランはこうした「流れ」を覆す力に欠けているかなぁと。おそらく「連戦によるコンディション低下」がその一因なのでしょうが、安定した勝利を目指すなら改善が不可欠な気がしますね。


決勝点


上記の点に関連し、試合後のピオリ監督は以下のようにコメントしています。

前半に追加点を奪えなかったことが試合を難しくしてしまったね。失点した後、チームは落ち込んでいるように見えた。我々は明確な哲学を持ったチームなのだから、そうした状態に陥ってはならない。しかしいつも通り、最終的に彼らは素晴らしい個性を発揮してくれた。大きな勝利だ。



同点後もシュートにまで中々至らず、もどかしい時間を過ごしたミラン。
すると72分にはレビッチ、ジルー、デ・ケテラーレとアタッカーを一気に投入。
対するスペツィアもヴェルデを投入するなどして、隙あらば追加点を狙いにいく姿勢を見せました。

ミランはジルーとデ・ケテラーレの高さやフィジカルを活かすべくゴール前へと積極的にボールを送り込み、そのこぼれ球に対しても俊敏に反応。徐々にではありますが得点の匂いを感じさせるシーンを作り出していきます。

すると89分。ネガティブトランジションの際にカルルが素晴らしい反応でパスカットし、こぼれ球を拾ったトナーリがゴール前に侵入。その彼のクロスにジルーが完璧なダイレクトボレーで合わせ、遂にミランが追加点を奪うことに成功しました。

先述のピオリ監督の言う「個性」という観点から振り返ると、この決勝点はカルルの「アグレッシブネス」、トナーリの「フィジカルとキック精度」、ジルーの「抜群の集中力とシュートテクニック」等が生み出したゴールといえますね。


ミラン2-1スペツィア


雑感


前節トリノ戦に続いてポイントを落とす危機に見舞われたものの、ジルーのスーパーゴールにより何とか勝ち点3を獲得したミラン。

首位ナポリが快進撃を続行している一方、アタランタが敗れたためにミランは2位に浮上しています。
首位との勝ち点差は「6」とまだまだ挽回可能でありますし、まずはシーズン中断前最後の2試合で勝利を収め、最低でも現在の状態をキープしたまま後半戦を迎えたいところです。


Forza Milan!


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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