【完勝、そして決勝トーナメントへ!】ミラン対ザルツブルク【2022-23シーズン・CL第6節】

2022-23シーズン・試合CL
今回はCLグループリーグ第6節、ミラン対ザルツブルクのマッチレビューを行います。

スタメン

【22-23】ミラン対ザルツブルク_スタメン

ベースフォーメーション:
ミラン「4-2-3-1」
ザルツブルク「4-3-1-2」


攻撃の狙い


まずはミランの攻撃(ボール保持)とザルツブルクの守備について。
ザルツブルクのコンパクトかつアグレッシブな守備に対し、ミランは明確な対応策を以て臨みました。

まずポイントになったのが「右サイド起点の組み立て」です。
ミランは攻撃時にカルル、ケアー、トモリで3バックを形成し、主に右CBのカルルからボール前進を図ります。


【22-23】ミラン対ザルツブルク_戦術分析1
――シーン1:ボールを持つカルル(赤20)に対し、ケアゴー(灰14)がプレスをかける

一方、ザルツブルクはミランの最終ラインに対しては主に2トップ(+ケアゴー)で対応し、積極的なプレッシングによるビルドアップの妨害を志向。そこでミランはロングボールを多用していくわけですが、これは想定済みの展開だったのでしょう。
前方にはレビッチ、ジルーと屈強なタイプが構え、更にはレオンも中央へとポジションを取りターゲットマンもしくはこぼれ球の回収役を務めることで、ロングボールに対する優位性を高めました。


【22-23】ミラン対ザルツブルク_戦術分析2
――先ほどの続きの場面。カルル(画面外)から前線の密集地帯へロングパスが送られ、そのボールをジルー(赤9)が収めた

更にザルツブルクは、中盤に人数をかけつつ最終ラインもコンパクトなラインを形成して待ち構えるため、密度の高い中央エリアに比べてサイドは空きがちになります。
今回の場合、ミランの右サイド重視の攻撃に対し同サイド寄りにコンパクトな陣形を構えるため、ミラン側左サイドはスペースが生まれ易い状況になる、と。

その弱所を突く上で重要な役割を果たしたのがテオです。
今回はカルルが最終ラインに入る一方、逆SBのテオが高めの位置を取る構成が基本でした。そして、右サイド側からのロングボールを前線が収めるなどして速攻のタイミングが生じた場合には、持ち味である縦のダイナミズムで素早く前方のスペースに侵入。そうしてパスを引き出し、味方3トップと共に一気にフィニッシュワークへと持ち込もうとします。


【22-23】ミラン対ザルツブルク_戦術分析3
――シーン2:前線でレビッチ(赤12)がロングボールを収めると、後方からテオ(赤19)が走り込んでレビッチからパスを引き出し、シュートにまで持ち込んだ

このようにして、ミランは試合開始序盤からチャンスを量産。先述したテオのポスト直撃のシュートに始まり、次々とザルツブルクゴールを脅かしていきました。


クルニッチの活躍


前線3トップ+テオを主役としたスピーディーな攻撃において、彼らと同等の重要な役割を担ったといえるのがクルニッチです。

以前「レビッチの右サイド起用について」という記事を書いた際にも最後に少し言及したのですが、今回のような攻撃的な3トップの場合、トップ下には攻守においてバランスの取れる選手の方が望ましいと考えられます。



そして現在のミランの場合、そうした役割を最もハイレベルにこなせる選手はやはりクルニッチでしょう。
シンプルなパス捌きで味方の仕掛けをサポートできる彼の存在は、レオンやテオ、レビッチのダイナミズムやドリブルを活かす上でとても有効です。この試合でも主にトランジションや速攻の局面で彼らの動きを的確にサポートし、機能的な攻撃の実現に貢献しました。


【22-23】ミラン対ザルツブルク_戦術分析4
――シーン3:ハーフウェイライン付近での一場面。自陣からのクリアボールを拾ったレビッチ(赤12)がドリブルで前進。同時にクルニッチ(赤33)が走り出し、レビッチからスルーパスを引き出す


【22-23】ミラン対ザルツブルク_戦術分析5
――その後の場面。パスを受けたクルニッチに対してはパヴロビッチ(灰31)が素早く詰めに来るも、クルニッチはワンタッチで左サイド前方に蹴り込み、レオン(赤17)を走らせカウンターを成立させた

すると14分、クルニッチ&テオのカウンターにより獲得したCKからジルーが決めてミランが先制に成功。

更に後半開始早々の46分。レビッチのクロスをジルーが頭で折り返すと、そのボールをクルニッチがヘディングで流し込み、貴重な追加点を獲得しました。

普段は脇役に徹するクルニッチですが、この試合ではゴールをも決める主役級の活躍を披露。監督の期待に見事に応えてくれましたね。


ベナセルの貢献


もう一人、この試合の「右サイド起点の攻撃」において重要な役割を担当した選手がいます。それはベナセルです。

カルルがボールを持った際、ベナセルは頻繁に右サイドに流れてパスコースを作る動きを見せました。これによりザルツブルク守備陣は彼への対応を迫られるわけですが、その対応を行ったことで手薄となる場所が生じます。

例えば、前半のザルツブルクは主に対面の左SBウーバーが縦スライドで対応します。しかしこれにより最終ラインの枚数が減ることとなり、先述したミランのロングボールへの対応力が弱まってしまう、と。


【22-23】ミラン対ザルツブルク_戦術分析6
――シーン4:カルル(赤20)がここでボールを受けると、ベナセル(赤4)はサイドに流れる。そこにはウーバー(灰39)が対応するも、カルルは前線へのロングボールを選択


【22-23】ミラン対ザルツブルク_戦術分析7
――相手の人数が減った前線ではジルーとレオンの連携でロングボールを収め、その後テオへと展開。速攻からチャンスを作り出した

するとザルツブルクは、後半初めにこの点を修正。サイドで受けようとするベナセルには主にトップ下のスチッチが横スライドで対応するようになります。
しかしこれにもまたリスクがあり、中盤の選手がサイドに流れることで中央エリアの支配力が弱まり、当該エリアを使われる恐れが生じると。

そしてベナセルは、その点をしっかり認識していたように見受けられます。57分にはサイドから中央へとドリブルで持ち運び、逆サイドのスペースで待ち構えるテオへとパスを供給。その流れからチーム3点目(ジルーのゴール)が生まれました。


【22-23】ミラン対ザルツブルク_戦術分析8
――シーン5:ボールを受けたベナセルに対し、スチッチ(灰21)が中央から寄せにくる。そこでベナセルは中央のスペースへとドリブルを開始


【22-23】ミラン対ザルツブルク_戦術分析9
――その後の場面。ベナセルから逆サイドでフリーのテオ(赤19)へとロングパスが送られた


この得点で勝利を決定づけたミランでしたが、91分にはメシアスがダメ押しの4点目を記録。大量4ゴールを奪うことに成功しました。


守備の狙い


続いて、ミランの守備とザルツブルクの攻撃について。

トランジションやプレス回避からのカウンター・速攻を大きな武器とするザルツブルクに対し、ミランとしては如何にしてそのような状況を作らせないかがポイントだったはずです。

その観点から振り返っていくと、ミランはいつもよりやや控えめなプレッシングを採用していたように見受けられました。

まず、ファーストディフェンダーのジルーは中央からCBに寄せていき、パスコースを片側サイドへと限定。その後方ではザルツブルクのパスの選択肢にそれぞれしっかりとマークに付き、縦パスに備えます。


【22-23】ミラン対ザルツブルク_戦術分析10
――シーン6:ドリブルで持ち運ぶパヴロビッチ(灰31)を追走するジルー

相手のキープレーヤーであるオカフォーには主にカルルが対応。彼の対人能力とケアーのサポートでもってオカフォー封じを目論みました。

また、その対応関係はネガティブトランジションにおいても同様であり、スペースのある状況でオカフォーにボールを持たせることがないようカルルがタイトにマークします。またカルルが攻め上がった場合には主にケアーやベナセルがその任務を交代で担当し、同様にオカフォーに自由を許すことはありませんでした(厳しいマークの中、それでも何度かポストプレーによりチャンスメイクしていたのは流石でしたが)。


対するザルツブルクは、左CBパヴロビッチによる積極的なドリブルでの持ち上がりで揺さぶりをかけますが、ジルーの献身的なプレスバックやクルニッチのカバーにより対応。また、アンカーのグルナ=ドゥアトが最終ラインに下がる動きを頻繁に見せるものの、それに対しミランは積極的な対応を見せることなくボール保持をある程度許します。

もしアグレッシブに行くのであれば、バックパスを受けに下がるグルナ=ドゥアトにクルニッチが積極的にプレスに出ることも考えられました。しかしそれを行わなかったのは、おそらく被速攻のリスクを高めないよう中盤の選択肢・スペースケアを優先したいという理由があったのではないかと推察されます。

【22-23】ミラン対ザルツブルク_戦術分析11
――シーン7:グルナ=ドゥアト(灰27)が下がってボールを持つが、ミランのMF陣は中盤の選択肢・スペースの管理を優先する

何にせよ上記により、ミランはザルツブルクのポゼッションに概ね無難に対応することができました。先述のオカフォー封じと合わせ、プレッシングの局面においては狙い通りの形を作れていたのかなと。


しかしながら、ミランはザルツブルクも得意とするトランジションの局面を完全に制することはできませんでした。そのため、自陣でクリアボールのこぼれ球を拾われるなどして相手に素早い反撃を食らい、ヒヤリとするシーンが散見。
また、レビッチの背後のスペースを同SBのウーバー等に突かれてピンチを迎えるシーンというのも一度ならず見られています。まぁこれは攻撃的布陣のリスクとしてある程度は甘受すべきなのかもしれませんが、同サイドにオカフォーやケアゴーといった選手がいたこともあり、危うさは確かに感じられましたね。


それでもゴールを許さず無失点で終えられたのは、タタルシャヌを含むDF陣のゴール前での粘りがあったからでしょう(後は少しの幸運)。試合終盤にはガッビアを投入するなどして守備を固め、最後まで集中を切らすことなく守り切ることが出来ました。


ミラン4-0ザルツブルク


雑感


4-0という申し分のないスコアで完勝を収めたミラン。
先述の通り非常に危ないシーンこそ何度かありましたが、それでも攻撃的な姿勢を貫き最高の結果を手にすることが出来ました。

これにより、ミランはグループEにて勝ち点を「10」獲得して単独2位フィニッシュ。実に9年ぶりとなる決勝トーナメント(ノックアウトステージ)進出となります。


グループリーグ突破により得られるチームのブランド面の強化、また財政的なメリットというのももちろん非常に大きいですが、何よりミランというクラブのアイデンティティとして、欧州最高の舞台で結果を残すというのはとても重要です。

それこそベルルスコーニ会長時代には「カンピオナートよりもCL」という方針を明確にしていたほどですからね。現在は当時のようにプライオリティに差を付けているわけでは無さそうですが、それでもCLが重要視されていることに変わりありません。


さて。3シーズン前より始まった「クラブ復権」への歩みは順調そのもので、今季もまた「CL決勝トーナメント進出」という形で重要な一歩を踏み出すことが出来ました。
ひとまず今季のCLでの目標は達成したといって良いと思いますが、ここから更に勝ち上がることをチームは目指しているでしょうし、ファン・サポーターも願いは同じです。

まずは当面のリーグ戦で結果を残してもらいつつ、来るCL決勝トーナメントR16を心待ちにしたいですね。


Forza Milan!


長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

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