CLで通用するセンターフォワードのタイプとは~ジルーよりもレビッチ?~
レビッチとオリギの復帰
レビッチとオリギが怪我から復帰し、前線の選択肢を増やしたミラン。
復帰後のレビッチはここまで主にスーパーサブとして活躍を見せており、リーグ戦では8節のエンポリ戦から10節のユーベ戦の3試合(計88分間)では途中出場から計1ゴール2アシストを記録。得点関与率が非常に高いです。
一方、オリギはここまで途中出場からだとノーゴール・ノーアシストですが、初先発となった先日の第11節モンツァ戦で1ゴール1アシストをマーク。チームの勝利に大きく貢献しています。
シチュエーションは対照的ながら、両者ともに結果を残している現状。頼もしい戦力が戻ってきたと喜ばしく感じられますね。
欧州で通用するCF
オリギのメインポジションはCF、レビッチもまたサイドアタッカー兼任ながらCFもこなせる選手という事で、このままいけば彼らとジルーのポジション争いは激化します。
そんな状況を踏まえ、先日『Milannews』にて興味深いコラムが掲載されていました。
ヨーロッパ(CL)にはジルーのような(あるいはイブラのような)センターフォワードが必要なのか、それともレビッチやオリギのようなプロフィールに焦点を当てた方がいいのか――Milannews
オリギ(レビッチ)とジルー(イブラ)は大きく異なるタイプのCFであり、オリギタイプを起用した場合のメリットについては前回の「モンツァ戦レビュー記事」でも言及しました。
シンプルかつ極端にまとめると、この点に関する両タイプの(実質的な)違いは「機動力」というワードで説明できると個人的に考えます。
ジルーは前線中央を主戦場とするタイプであり、またイブラも試合を通してのプレーエリアこそ割と広めですが、ワンプレー毎の動きが少ないです。
一方、レビッチやオリギはスピード、フィジカル、走力・持久力を備え、サイドでもプレー可能なテクニックもあります。
そんな彼らをCFとして起用すると、前線で「幅広いプレー」を行うことが可能になると。
例えば相手のDFラインが高ければ、その「裏のスペースを効果的に突く」ことができます。またチームがサイドから組み立て・崩しを行う際には、彼らが状況に応じて「中央からサイド方向に流れてパスを引き出す」ことでチームのビルドアップやフィニッシュワークをサポートすることが可能です。
そして彼らのようなタイプが前線にいる事で、チームとしてスピーディーな攻撃が仕掛けやすくなります。その効果はトランジションの局面において真価を発揮しますし、同局面を重視するミランにとっては決して見逃せないメリットです。
更に、このようなタイプの起用によって前線の流動性が高まり、チームとして「流動的な攻撃を行う」ことが可能になる点は重要です。相手にとってその手の動きに対応するのは難しく、非常に有効な攻撃となり得ますからね。
欧州での戦いを振り返る
上記の点に関し、もう少し掘り下げていきましょう。
今回の論点は「ヨーロッパで通用する(通用しやすい)個の力」という話なので、例として参考にする試合はCLが適切なはず。という訳で次に、昨季にレビッチがCFとして先発した第1節のリバプール戦、2節のアトレティコ戦を参照していきます。
レビッチの場合
リバプール戦は久々のCLの舞台という事もあって序盤は動きが非常に固く、防戦一方となる時間帯が続きました。
しかし、前半中頃から落ち着きを取り戻すと徐々にチャンスを作り出すようなり、42分・44分と立て続けにゴールを奪う事に成功。そしてその2ゴールにおいて、レビッチは決定的な役割を果たしています。
(0:47~)
1点目はレオンとの流動的なポジションチェンジが鍵になりました。ボールホルダーのサレマの前方にて、中央からレオンが右方向へ、レビッチが左方向に流れて相手守備陣を揺さぶり、素早いパス回しからレビッチがフィニッシュ。
(1:03~)
2点目はスピーディーな速攻と流動的な攻撃の合わせ技です。自陣サイドで相手のプレスを躱し、レオンがドリブルを開始すると、テオと共にレビッチがフルスプリント。サイド方向に抜け出してレオンからパスを引き出し、中央へラストパス。最終的にブラヒムの得点へと繋がる重要な仕事を果たしました。
続いて、第2節のアトレティコ戦はチームとしても非常に良い出足を見せましたが、28分のケシエ退場を機に一気に流れが変わった極めて悔しい一戦です。しかし、11人で戦った短い時間内でレビッチは効果的なプレーを見せています。
(0:09~)
前半19分。ミランが自陣でボールを奪いカウンターを開始。ブラヒムがフリーで受けると同時にレビッチが相手最終ラインの弱所を突き、スルーパスを引き出して一気にゴール前に侵入。決定機を生み出しました。
昨季のレビッチは怪我によりCLでは2試合にしか出場できませんでしたが、このように印象的な活躍を披露。CFに彼のようなタイプを起用することで得られるメリットを、ミランは十分に享受していたといえますね。
ジルー、イブラの場合
他方、レビッチ離脱後にCLで1トップを務めたジルーやイブラはどうだったか。
ジルーは3節~5節に先発。ポルトとの2連戦とアトレティコ戦に臨みましたが、結果を残すことはできませんでした。
特にポルトとの2連戦では限界を露呈。ハイラインを敷くポルトのDFラインを破ることができないばかりか、ポストプレーや空中戦でもペペやムベンバを前に沈黙を余儀なくされました。
同様にイブラも最終節のリバプール戦で満を持して先発するも、相手DFコナテを前に沈黙。不発に終わっています。
機動力に欠ける彼らは相手DFに捕まり易く、したがって活躍のために特に重要になるのは頻繁に生じ得るマッチアップで対面の相手を上回るプレーをすることです。しかし、同格以上のDFとぶつかることの多いCLの舞台ですと、彼らの持ち味とするポストプレーやキープを行う難易度は上がります。
また戦術的に見ても、トランジションの局面で彼らが自らドリブルで持ち運ぶのは効果的ではないですし、周囲の味方(レオンやテオ)にボールを運んでもらう必要性が高まります。
そのため、彼らが先述のアトレティコ戦で見せたようなレビッチのプレー(一発で裏のスペースに飛び出してシュートまで持っていく)を行うのは現実的でなく、代わりに周囲の味方に素早く叩いてカウンターの起点になることが多くなりますが、その「一手」の多さがCLの舞台では結果(ゴールチャンスの創出)に影響し得る、と個人的には感じています。
一方、今の彼らがCLで違いを生み出すとすれば、それはゴール前での一瞬の駆け引きではないかと思われます。
百戦錬磨の経験に裏打ちされた「ここぞ」の場面を見極める嗅覚、そこから最適なポジションを取るための判断力、そして決定機で動じずに決めきる冷静さ…。
そうした能力を以てチームに決定的な貢献を果たすことはまだまだ可能ではないかなと。
(1:41~)
昨季のCL第5節のポルト戦、途中出場のイブラが見せたプレーは好例といえます。
この時はネットを揺らすもオフサイドでゴールとはなりませんでしたが、これぞイブラやジルーに強く期待されるプレーではないでしょうか。その点から考えると、今季のCL第4節チェルシー戦で見せたジルーのヘディング(クロスボールをフリーで合わせるも枠外)は正直かなり残念でしたし、ああいうシーンで決め切ること(せめて枠内シュート)を今後は求めたいです。
まとめ
最後に僕の結論をまとめると、CLではタイプ的にレビッチやオリギをCFで先発起用した方が上手くいくシチュエーションは多いと考えています。
ただしイブラやジルーも重要戦力であり、彼らがスーパーサブとして決定力を発揮することが、今季のミランがCLで躍進するための鍵になるかもしれませんね。
それにはまずミランはグループリーグ残り2戦で勝利を収めないといけませんが、次戦のザグレブ戦で先発予想されているのは現時点だとジルーです。
戦力的・戦術的に見てザグレブは、今回想定した「欧州戦」からは外れるため何とも言えませんが…。今後CFに誰を起用するか、またそのパフォーマンスはどうかといった視点でCLに注目していくのも面白そうですね。
それでは今回はこの辺で。