【勝利をもたらした王者の対応力】ミラン対ユベントス【2022-23シーズン・セリエA第9節】

2022-23シーズン・試合ユベントス戦
今回はセリエA第9節、ミラン対ユベントスのマッチレビューを行います。

スタメン

【22-23】ミラン対ユベントス_スタメン

基本システム:ミラン「4-3-3」、ユベントス「4-4-2」


大まかな試合展開


この試合のポゼッション率は「39.5対60.5」(『Whoscored』より)。
全体的にボール自体はユーベが握る時間帯が長かったものの、ミランは組織的な守備で試合をコントロールし、ユーベのシュートチャンスを制限。そして自らはトランジションを中心とする速い攻めでチャンスを量産していきました。
結果、シュート数は「21対10」と明確な差を付け、スコアも「2-0」で快勝を収めることに成功しています。

という訳で今回は、ユーベのポゼッションとそれに対するミランの守備に焦点を当てて振り返っていきたいと思います。


ユーベの優勢


試合開始から20分ほどはユーベが優勢だったかと思います。

ミランは攻撃時「3-2-4-1」の基本陣形を取り、ユーベの「4-4-2」を崩していこうとしますが、コンパクトかつアグレッシブな相手のブロックに手を焼き、中々ポジショナルな攻撃からチャンスを作りだしていくことが出来ません。逆にボールロストから被カウンターを食らう場面も序盤は散見されました。


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析1
――シーン1:ミランの攻撃陣形

一方、ユーベは右サイドを起点とする攻撃からチャンスを作り出していきます。狙いはレオンの背後のスペースです。
というのもハイプレス時にミランはレオン、ジルーの2枚がユーベの2CBにプレッシャーをかけていく形を基本としますが、それによりレオンの背後のスペース(具体的には幅を取る相手選手、主にダニーロ)が一時的に空き易くなります。そこをユーベは狙っていく、と。


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析2
――シーン2:GKからボールを受けた右CBブレーメルに対し、レオンが寄せに行く。ここでブレーメルは前方のクアドラードに縦パス

そのダニーロに対してミランは近くのベナセルかテオが順次応対していくわけですが、今度はその後ろのスペースが空き易くなります。例えばベナセルが前方のサイドに引っ張られた際、その後ろの中盤スペースが空くリスクが生じるわけですね。
すると9分。ユーベは(多分)狙い通りの形から決定機を演出していきました。


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析3
――先ほどの続きの場面。パスを受けたクアドラードはワンタッチでダニーロに。そこへベナセルが2度追いで寄せに行くが、このあとダニーロはワンタッチで前線にロングパス


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析4
――その後の場面。ロングボールをガッビアが弾き返すが、こぼれ球はスペースのある中盤へ。そこへはトナーリとロカテッリが向かう


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析5
――その後の場面。こぼれ球は最終的にユベントスに渡り、5対3での速攻を開始。非常に危険なシーンを迎えた

更にこの点に関し、ミランにとって厄介な存在となり得たのが左CBのボヌッチです。
彼は逆サイドに正確なボールを通す技術があるため、ダニーロへと直接ボールを渡すことで当該スペースを利用する狙いを一度ならず見せました。


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析6
――シーン3:ボヌッチ(画面外)からフリーのダニーロへとロングパスが通る

また、ユーベの右サイドコンビ(ダニーロ&クアドラード)は内と外を流動的に動きます。そのためマークに付きづらく、そんな彼らからチャンスを作られるシーンが目立ちました。


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析7
――シーン4:ここではベナセル(画面外)が流れの中で自陣ゴール前にいる状態。そこで中盤にスペースを見出したダニーロは、内に入ってブレーメルから縦パスを引き出す


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析8
――その後の場面。ダニーロがそのまま持ち運び、強烈なシュートを放った

このようにして、ユーベは前半の20分間で「4本」のシュートを記録。この試合のシュート総数が「10本」でしたので、前半序盤だけでほぼ半分のシュートを撃ったことになりますね。


ミランの修正と中盤の強度


さて。このようなユーベに対し、ミランは20分頃に守備陣形に修正を加えます。
レオンの背後のスペースが狙われていたという事で、ハイプレス時にレオンを前に上げず、そのままダニーロのマークに付かせました。そして然るべきタイミングで背後のテオにマークを受け渡すという流れです。


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析9
――シーン5:ダニーロをマークするレオン

これによりユーベのCBに対しては基本的にジルー1人で対応することになり、高い位置で彼らを抑えることは難しくなります(状況によってはポベガが前に出て行きましたが)。
一方、先述のような形でスペースを空けるリスクが大幅に減ったことで、中盤(ミドルサード)で支配権を握り、ユーベの攻撃を抑え込むことができるようになりました。


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析10
――シーン6:GKシュチェスニーは前線へのロングボールを選択。ここでベナセルは中盤エリアに構え、こぼれ球に備える


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析11
――その後の場面。ベナセルがこぼれ球を回収した

また、この点に関してポイントになったのが「ミランのMF3枚の構成」です。
この試合のミランはトナーリ、ベナセルの鉄板コンビに加えてポベガという中盤色の濃い3枚で構成。そしてトナーリとポベガは対面のラビオとロカテッリを、ベナセルは自身の近くに入ってくる選手(主にダニーロの前進に応じて中に入ってくるクアドラード)をマークする形が基本でした。


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析12
――シーン7:中盤でラビオ、ロカテッリ、クアドラードをマークするトナーリ、ポベガ、ベナセル

他方でユーベのダブルボランチはロカテッリが下がり目の位置でゲームを組み立て、ラビオが比較的高い位置を取るという関係性が基本のように見受けられましたが、両者は立ち位置や役割を頻繁に変えてきます。そこでミランの中盤は彼らの流動的な攻撃に対応するための走力や、中盤としての守備力(ポジショニングの判断や後ろ向きの守備力、球際の強さ)を強く求められ、その結果としてポベガがこの試合の先発に抜擢されたものと考えられます。

そしてポベガはその期待にしっかりと応えてくれました。少々気になるところはありましたが、トナーリ・ベナセルと協同しながら中盤エリアの選択肢(パスコース)とスペースを良く管理し、相手の攻撃を封じ込めることに成功します。

そうして、ユーベの攻撃は機能不全に陥りました。彼らは2トップの一角(主にミリク)のポストプレーによる落としを中盤の3枚(ラビオ、ロカテッリ、クアドラード)が中心となって受け、打開を図る形を志向していたように見受けられましたが、先述の通り中盤を抑えられたため上手くいかなかった、と。


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析13
――シーン8:後方からのロングボールをミリクが落とし、走り込んできたラビオがトナーリのプレッシャーを受けながらもボールを拾う


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析14
――その後の場面。ラビオがミリクにリターンパスを送るも、クアドラードを監視していたベナセルがそれに反応。ボールをカットし、カウンターのチャンスに繋げた

それでもユーベは散発的にゴール前まで侵入しますが、最後はミランDF陣に阻まれます。そのため、ミランが守備を修正して以降の前半約25分間は1本もシュートを撃てません。
対するミランは同時間帯に計8本のシュートを放ち、内1つはゴールへと繋がりました。


重要な2点目


後半。1点ビハインドのユベントスはクアドラードに代えてマッケニーを投入。序盤にはそのマッケニー経由の右サイド突破や前半から続く楔のパスを用いたボール前進を見せますが、シュートには至りません。
すると54分、ヴラホビッチの横パスをカットしたブラヒムがハーフウェイラインからドリブルで独走。そのままゴールまで一直線に駆け抜けました。

ミリクに比べてヴラホビッチはポストプレーの安定感に欠けており、実際前半にも同様に横パスをテオに掻っ攫われて危険なカウンターを食らっていました。ミランとしては相手の持つリスクに付け込み、見事に重要な追加点を獲得した格好です。


ユーベの打開策とミランの対応1


2点ビハインドとなったユーベは大きく動き出します。
失点直後の56分、ロカテッリとコスティッチに代えてパレデスとミレッティを投入。これによりパレデスをアンカーポジションに置き、その前方にラビオ、ミレッティ、マッケニーを配する形を取ります(敢えてシステム表記するなら「4-3-1-2」)。

これで中央の枚数を厚くして中盤の支配権を取り戻そうとしたのか、実際にミランとしても最初は相手中盤のマークに付き切れず、陣形を押し下げられる場面が見られました。


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析15
――シーン9:ここではマッケニー(画面外)が前線に上がり、ミレッティが下がってボールを受け、中央でフリーのラビオにパスを通す

しかしながら、ミランも早い段階で対応していきます。まずは58分に疲れの見えたポベガに代えてクルニッチを投入。クルニッチも上述した守備的タスクをきっちりとこなせるタイプであり、主にパレデスをマークしつつ中盤のスペースを監視します。
更には64分にジルー、ブラヒムに代えてレビッチとデケテラーレが登場。前線のプレッシャーを高めると共に、主にカウンター要員として攻撃に備えます。

そして、相手の陣形変更に伴い明確なマーク担当のいなくなった両SB(カルル、テオ)が、状況に応じ縦スライドして中盤のパスコースを監視。こうした対応により引き続き相手にプレッシャーをかけ続け、ボール奪取からカウンターを繰り出していきました。


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析16
――シーン10:ブレーメルの縦パスに備える前方の3人(ラビオ、ミレッティ、マッケーニ)。それに対しミランはトナーリ、ベナセルに加えてここではテオが縦スライドし、中盤のパスコースを制限


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析17
――その後の場面。パスを受けたミレッティをベナセルとトナーリで挟み、ボールを奪取した(赤)


ユーベの打開策とミランの対応2


すると後半終盤。ユーベが最後のカードを切ります。
78分にヴラホビッチに代えてキーン、80分にラビオに代えてスーレを投入。この2人をサイドに置き、インサイドハーフをマッケニーとミレッティが務める「4-3-3」で攻勢をかけてきました。

しかし、ミランはそれにもしっかりと対応。両サイドのキーン、スーレの2人にはそれぞれカルルとテオがマッチアップして自由にさせず、またそれにより生じやすい背後のスペースはベナセルとトナーリの2人が主に監視します。


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析18
――シーン11:ケーンとマッチアップするカルル。その背後に飛び出すミレッティにはトナーリが対応


【22-23】ミラン対ユベントス_戦術分析19
――シーン12:スーレとマッチアップするテオ。その背後のスペースとマッケニーはベナセルが監視

84分にはケーンが連携プレーから中央突破を図り、決定機を迎えますがカルルの粘り強いマークによりゴール前でシュートブロックします。

このようにユーベは状況を打開するために様々な策を講じてきましたが、それらに動じることなくミランはその全てに冷静に対応し、無失点で試合を終えることに成功しました。


ミラン2-0ユベントス


雑感


チェルシー戦からの嫌な流れを払拭する見事な勝利を挙げたミラン。
ユーベを相手に複数得点はもちろん、9月に一度も達成できなかったクリーンシートでの勝利という事で、喜びもひとしおですね。

内容に目を向けると、やはり何といっても守備の組織力の高さを挙げるべきでしょう。
前半序盤こそパスミスからトランジション攻撃を受けるなどして少々危険なシーンを作られたものの、徐々に落ち着きだしてからは中盤の強度を高めた狙いが奏功し、ユーベの中央(楔)起点の攻撃を封じ込めることに成功。この点に関しては先述した通りです。

そしてDF陣。テオの復帰とカルルの右SB起用でチェルシー戦の綻びを修正し、そのカルルの代わりにCBに入ったガッビアが安定したパフォーマンスを披露。トモリと共に相手2トップに対し粘り強く対応し、自由を許しませんでした。

この試合で結果を出したガッビアのチェルシー戦先発、すなわち今回のバックラインの構成は継続されるべきでしょう。攻撃時・トランジション時にCBの受けるプレッシャーが今回のユーベとチェルシーとでは異なるため一概に判断できませんが、今のデストを起用するよりも遥かに期待できますね。


さて。まぁいずれにせよ、まず今日はユーベ戦の勝利に浮かれたいところです。
これまで何度も書いてきましたが、僕の中だとインテルとユーベ相手の勝利はいつ何時でも格別。この喜びは何物にも代えがたいですし、コレを味わえるチャンスがあるからこそ彼らとの試合では観戦に熱が入ります。

ミランを応援してきて良かったと思える、通算x回目の試合でした。


Forza Milan!


非常に長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

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