【デ・ケテラーレのパフォーマンス分析】ミラン対ナポリ【2022-23シーズン・セリエA第7節】
本日はセリエA第7節、ミラン対ナポリのマッチレビューを行いたいと思います。
既に守備(失点シーン)については以下の記事内で言及したため、今回は攻撃面、とりわけ「デ・ケテラーレ」を話題の中心に据えながら振り返っていきましょう。
スタメン

基本システム:ミラン「4-2-3-1」、ナポリ「4-3-3」
まずはミランのボール保持時における、両チームの基本となる陣形について触れておきます。
ナポリは守備時「4—5—1」を軸に、前からのプレッシング時には左インサイドハーフのジエリンスキがミランCBにアタックし、ビルドアップを制限する形が基本です。

――シーン1:ラスパドーリがメニャンにまでプレス。ここでケアーに対してはジエリンスキがマーク
対するミランは両サイドハーフのサレマ、クルニッチの両方をビルドアップの初期段階から内に絞らせ、中盤にて数的優位を作り出そうとする意図を明確に打ち出しました。

――その後の場面。ジルーに向けてメニャンからロングボールが出される。そのジルーの手前にはデケテラーレ(CDK)、クルニッチ、サレマが密集し、こぼれ球を狙う

――参考1:この試合前半におけるミランの攻撃時の平均ポジション
またビルドアップvsハイプレスの攻防において、もう一つのポイントになったのがボランチの動きです。
ミランはダブルボランチ(トナーリ、ベナセル)の片方がアンカーポジションに入って相手ボランチを手前に引き付けることで、中盤エリアを手薄にさせます。その中盤のスペースに2列目3人が入り込んでロングボールを受ける、もしくは「ジルーへのロングボール」という過程を挟んでこぼれ球を受けるなどといった形でナポリのハイプレスを何度も回避していきました。

――シーン2:アンカーポジションに入ったトナーリにアンギサが対応する。一方、その背後ではミランの選手たちが動き回り、ロボツカが複数人の対応を余儀なくされる。ここでメニャンはケアーへのパスを選択し、この後ケアーから前方のサレマ(画面外)にロングパスが通る

――その後の場面。サレマがロングボールを頭で反らし、中盤のスペースに落とす。このあと自らも当該スペースに侵入し、ジルーからリターンを受けて速攻を開始した
特にジルーはこの局面において、ロングボールのターゲットマンとして大いに貢献。以下のように、相手DFと多くの競り合いを行いました。

――参考2:この試合における攻撃時の空中戦ランキング。ジルーが「10回」で断トツ
ビルドアップを確立した後のミランは、2CBとベナセルを軸に後方で回しつつ、内と外を使いながら効果的にボールを前進させていきます。
先述の通りサレマとクルニッチが内に絞るため、幅を取るのは両SB(テオ、カラブリア)の役割です。彼らがサイドへのパスの選択肢になることで、ナポリの守備ブロックを引き延ばしました。

――シーン3:中央へのパスコースを制限するナポリ。そこでケアーはサイドのカラブリアに展開
さて。ここまで長い前置きとなりましたが、ここからがデ・ケテラーレが主に担った役割・機能についてです。
彼はナポリ守備陣のライン間を幅広く動き回り、主に両ハーフスペースにてパスの受け手として機能。同ハーフスペースを主戦場とする選手(サレマ、クルニッチ)と協同してファイナルサードへとボールを持ち運び、チャンスを作り出していく上で大きな貢献を果たしました。

――先ほどの続きの場面。カラブリアへのパスでナポリの守備ブロックを広げ、サレマ、ライン間のデケテラーレへとパスを繋いでいくミラン
デケテラーレの魅力の一つとして、「ライン間に常駐出来ること」が挙げられると思います。
例えばブラヒムだと中々パスが回って来なかったり狭いスペースでプレッシャーを感じたりすると、味方のポジション状況をあまり考慮せずにボールを貰いに下がる悪癖がありますが、デ・ケテラーレはそこで耐えることができます。そうして味方のボール回しとそれに対する相手の反応を窺いつつ、ボールを前進させるために最適と考えられるポジションを取り続け、パスを引き出そうとしてくれる、と。
他方で上記の点に関し、この試合では両者の共演がポジティブに作用したと考えられる場面が見られています。
66分にクルニッチとの交代で投入されたブラヒムは、クルニッチと同様に左ハーフスペースを主戦場に。そしてデ・ケテラーレ等との連携で相手守備陣を崩す役割が期待されました。

――シーン4:この位置でボールを受けたブラヒム。ここからドリブルでボールキープし、アンギサを引き付ける

――その後の場面。アンギサが対応に出ている事で広がった、ライン間のスペースに抜かりなく侵入するデケテラーレ。この後ブラヒムからパスを引き出し、ボールを前進させた
ブラヒムの「ブロックの外でパスを受け、ボールをキープして相手を引き付ける(誘引)」動きとデケテラーレの「ライン間へのポジショニング(スペースへの侵入)」が噛み合ったシーンですね。
ブラヒムはこういう「ライン間にパスを差し込む」プレーを地味に得意としているように見受けられますし、またデ・ケテラーレのポジショニングセンスについては先述の通り素晴らしい。という訳で、この点から両者のプレースタイル的相性は決して悪くないと僕は感じています。
少なくともブラヒムにとってはデ・ケテラーレとポジションを争うのではなく、ピッチで共存していくことが今後のミランで立場を堅持するための鍵なのではないかなぁと。今回のような役割・機能なら今後も左サイドハーフで起用されても不思議ではないですしね
すると69分。ブラヒムからパスを受けたデ・ケテラーレがライン間で前を向き、左サイドを走るテオに完璧なスルーパスを供給。そのテオのクロスをジルーがワンタッチで流し込み、ミランが得点を奪うことに成功しました。

――シーン5:アンギサに対し局所的に数的優位を作り、トモリからの縦パスをブラヒム、デケテラーレと繋いでボールを前進させる

――その後の場面。左サイドを駆け上がるテオに、デケテラーレから完璧なスルーパスが通る。この後テオがエリア内に侵入してクロス。ジルーのゴールをアシストした
最後に、デ・ケテラーレの最大の役割について言及しておきます。
その役割とは「得点に直結するプレー」です。
確かに前述したゴールシーンにおけるテオへのスルーパスの精度は非常に素晴らしく、ゴールに大きく関与したことは間違いありません。しかし、彼に求められるのはより決定的なプレーによる「結果」であり、それはつまり「プレアシスト」ではなく「得点・アシスト」となります。
その意味において、この試合のデ・ケテラーレは「結果」を残すことができませんでした。そのため以下のように数多くのチャンスを演出したにも関わらず、お馴染み『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙によるこの試合のデケテラーレの採点は「6」止まりです。

――シーン6:前半のカウンターの場面。左サイド深くのテオからデケテラーレにボールが渡り、続いて横のクルニッチへパス。これによりナポリの選手たちがクルニッチに意識を向け、寄せに行くと同時にデケテラーレはエリア内のスペースへと侵入していく

――その後の場面。クルニッチの浮き球のパスを敵陣深くに引き出したデケテラーレは、この後ダイレクトでクロス。シュートチャンスを作り出した

――シーン7:後半、カウンターの場面。対面のロボツカをフェイントでいなした後、中央のスペースに走り込んだメシアスにスルーパス。シュートチャンスを演出した

――シーン8:後半の場面。相手のDFラインの間に侵入し、左サイドのトナーリからパスを引き出すデケテラーレ

――その後の場面。トラップと同時に中央へ向き、中央のスペースに走り込んだジルーへパス。シュートチャンスを演出した
ここまで見てきたように、この試合で僕が抱いた「デ・ケテラーレのパフォーマンス」の印象は極めてポジティブなものです。攻守ともに順調にチームにフィットしてきている様子が窺えますし、ピオリ監督からの評価も試合後コメントを見る限り上々ですしね。
しかしながら、彼に期待される役割やそのポテンシャルの高さを考えると、今後は確かにもっと多くを求めたくなるのも事実です。
パフォーマンス的にはもう間もなくゴール・アシストを定期的に記録していけるようになるでしょうし、心配は無用なように思いますが…。メンタル面を考慮すると、出来るだけ早く初ゴールを決めて安心して欲しい気持ちはありますね。
幸か不幸か代表ウィークによる中断が入り、デ・ケテラーレの初ゴール(と2アシスト目)は10月以降に持ち越しとなりましたが、次のエンポリ戦こそ待望の「結果」に期待したいと思います。
それでは今回はこの辺で。
既に守備(失点シーン)については以下の記事内で言及したため、今回は攻撃面、とりわけ「デ・ケテラーレ」を話題の中心に据えながら振り返っていきましょう。
スタメン

基本システム:ミラン「4-2-3-1」、ナポリ「4-3-3」
ミランのプレス回避
まずはミランのボール保持時における、両チームの基本となる陣形について触れておきます。
ナポリは守備時「4—5—1」を軸に、前からのプレッシング時には左インサイドハーフのジエリンスキがミランCBにアタックし、ビルドアップを制限する形が基本です。

――シーン1:ラスパドーリがメニャンにまでプレス。ここでケアーに対してはジエリンスキがマーク
対するミランは両サイドハーフのサレマ、クルニッチの両方をビルドアップの初期段階から内に絞らせ、中盤にて数的優位を作り出そうとする意図を明確に打ち出しました。

――その後の場面。ジルーに向けてメニャンからロングボールが出される。そのジルーの手前にはデケテラーレ(CDK)、クルニッチ、サレマが密集し、こぼれ球を狙う

――参考1:この試合前半におけるミランの攻撃時の平均ポジション
またビルドアップvsハイプレスの攻防において、もう一つのポイントになったのがボランチの動きです。
ミランはダブルボランチ(トナーリ、ベナセル)の片方がアンカーポジションに入って相手ボランチを手前に引き付けることで、中盤エリアを手薄にさせます。その中盤のスペースに2列目3人が入り込んでロングボールを受ける、もしくは「ジルーへのロングボール」という過程を挟んでこぼれ球を受けるなどといった形でナポリのハイプレスを何度も回避していきました。

――シーン2:アンカーポジションに入ったトナーリにアンギサが対応する。一方、その背後ではミランの選手たちが動き回り、ロボツカが複数人の対応を余儀なくされる。ここでメニャンはケアーへのパスを選択し、この後ケアーから前方のサレマ(画面外)にロングパスが通る

――その後の場面。サレマがロングボールを頭で反らし、中盤のスペースに落とす。このあと自らも当該スペースに侵入し、ジルーからリターンを受けて速攻を開始した
特にジルーはこの局面において、ロングボールのターゲットマンとして大いに貢献。以下のように、相手DFと多くの競り合いを行いました。

――参考2:この試合における攻撃時の空中戦ランキング。ジルーが「10回」で断トツ
ライン間攻略
ビルドアップを確立した後のミランは、2CBとベナセルを軸に後方で回しつつ、内と外を使いながら効果的にボールを前進させていきます。
先述の通りサレマとクルニッチが内に絞るため、幅を取るのは両SB(テオ、カラブリア)の役割です。彼らがサイドへのパスの選択肢になることで、ナポリの守備ブロックを引き延ばしました。

――シーン3:中央へのパスコースを制限するナポリ。そこでケアーはサイドのカラブリアに展開
さて。ここまで長い前置きとなりましたが、ここからがデ・ケテラーレが主に担った役割・機能についてです。
彼はナポリ守備陣のライン間を幅広く動き回り、主に両ハーフスペースにてパスの受け手として機能。同ハーフスペースを主戦場とする選手(サレマ、クルニッチ)と協同してファイナルサードへとボールを持ち運び、チャンスを作り出していく上で大きな貢献を果たしました。

――先ほどの続きの場面。カラブリアへのパスでナポリの守備ブロックを広げ、サレマ、ライン間のデケテラーレへとパスを繋いでいくミラン
デケテラーレの魅力の一つとして、「ライン間に常駐出来ること」が挙げられると思います。
例えばブラヒムだと中々パスが回って来なかったり狭いスペースでプレッシャーを感じたりすると、味方のポジション状況をあまり考慮せずにボールを貰いに下がる悪癖がありますが、デ・ケテラーレはそこで耐えることができます。そうして味方のボール回しとそれに対する相手の反応を窺いつつ、ボールを前進させるために最適と考えられるポジションを取り続け、パスを引き出そうとしてくれる、と。
他方で上記の点に関し、この試合では両者の共演がポジティブに作用したと考えられる場面が見られています。
66分にクルニッチとの交代で投入されたブラヒムは、クルニッチと同様に左ハーフスペースを主戦場に。そしてデ・ケテラーレ等との連携で相手守備陣を崩す役割が期待されました。

――シーン4:この位置でボールを受けたブラヒム。ここからドリブルでボールキープし、アンギサを引き付ける

――その後の場面。アンギサが対応に出ている事で広がった、ライン間のスペースに抜かりなく侵入するデケテラーレ。この後ブラヒムからパスを引き出し、ボールを前進させた
ブラヒムの「ブロックの外でパスを受け、ボールをキープして相手を引き付ける(誘引)」動きとデケテラーレの「ライン間へのポジショニング(スペースへの侵入)」が噛み合ったシーンですね。
ブラヒムはこういう「ライン間にパスを差し込む」プレーを地味に得意としているように見受けられますし、またデ・ケテラーレのポジショニングセンスについては先述の通り素晴らしい。という訳で、この点から両者のプレースタイル的相性は決して悪くないと僕は感じています。
少なくともブラヒムにとってはデ・ケテラーレとポジションを争うのではなく、ピッチで共存していくことが今後のミランで立場を堅持するための鍵なのではないかなぁと。今回のような役割・機能なら今後も左サイドハーフで起用されても不思議ではないですしね
すると69分。ブラヒムからパスを受けたデ・ケテラーレがライン間で前を向き、左サイドを走るテオに完璧なスルーパスを供給。そのテオのクロスをジルーがワンタッチで流し込み、ミランが得点を奪うことに成功しました。

――シーン5:アンギサに対し局所的に数的優位を作り、トモリからの縦パスをブラヒム、デケテラーレと繋いでボールを前進させる

――その後の場面。左サイドを駆け上がるテオに、デケテラーレから完璧なスルーパスが通る。この後テオがエリア内に侵入してクロス。ジルーのゴールをアシストした
得点に直結するプレー
最後に、デ・ケテラーレの最大の役割について言及しておきます。
その役割とは「得点に直結するプレー」です。
確かに前述したゴールシーンにおけるテオへのスルーパスの精度は非常に素晴らしく、ゴールに大きく関与したことは間違いありません。しかし、彼に求められるのはより決定的なプレーによる「結果」であり、それはつまり「プレアシスト」ではなく「得点・アシスト」となります。
その意味において、この試合のデ・ケテラーレは「結果」を残すことができませんでした。そのため以下のように数多くのチャンスを演出したにも関わらず、お馴染み『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙によるこの試合のデケテラーレの採点は「6」止まりです。

――シーン6:前半のカウンターの場面。左サイド深くのテオからデケテラーレにボールが渡り、続いて横のクルニッチへパス。これによりナポリの選手たちがクルニッチに意識を向け、寄せに行くと同時にデケテラーレはエリア内のスペースへと侵入していく

――その後の場面。クルニッチの浮き球のパスを敵陣深くに引き出したデケテラーレは、この後ダイレクトでクロス。シュートチャンスを作り出した

――シーン7:後半、カウンターの場面。対面のロボツカをフェイントでいなした後、中央のスペースに走り込んだメシアスにスルーパス。シュートチャンスを演出した

――シーン8:後半の場面。相手のDFラインの間に侵入し、左サイドのトナーリからパスを引き出すデケテラーレ

――その後の場面。トラップと同時に中央へ向き、中央のスペースに走り込んだジルーへパス。シュートチャンスを演出した
雑感
ここまで見てきたように、この試合で僕が抱いた「デ・ケテラーレのパフォーマンス」の印象は極めてポジティブなものです。攻守ともに順調にチームにフィットしてきている様子が窺えますし、ピオリ監督からの評価も試合後コメントを見る限り上々ですしね。
しかしながら、彼に期待される役割やそのポテンシャルの高さを考えると、今後は確かにもっと多くを求めたくなるのも事実です。
パフォーマンス的にはもう間もなくゴール・アシストを定期的に記録していけるようになるでしょうし、心配は無用なように思いますが…。メンタル面を考慮すると、出来るだけ早く初ゴールを決めて安心して欲しい気持ちはありますね。
幸か不幸か代表ウィークによる中断が入り、デ・ケテラーレの初ゴール(と2アシスト目)は10月以降に持ち越しとなりましたが、次のエンポリ戦こそ待望の「結果」に期待したいと思います。
それでは今回はこの辺で。