ミランの失点が多い原因を考える~VSナポリ~
今回はセリエA第7節、ミラン対ナポリのマッチレビューです。
ただし今回は「守備の局面」、それも失点シーンに焦点を絞りながら振り返っていこうかなと。
チームパフォーマンス的な観点からだと、このナポリ戦は非常に良いものだったと僕は思っていて、例えエースのレオンがいなくてもやり方次第で十分なパフォーマンスを維持する事が出来ると証明できたはずの試合だったと考えています。
しかし、結果は1-2の敗北です。
これにより今季のミランは公式戦ここまでの9試合で10失点を喫したこととなり、直近5試合全てで失点を記録。昨季終盤の堅守(11試合で2失点)を思い返すと酷い状況ですね。
その原因については様々考えられますが、ここではナポリ戦の2つの失点シーンを判断材料に、「個人レベル」によるものと「組織レベル」によるものの2点を指摘しておきたいと思います。
まずは1失点目のシーンについてです。
(当該シーン:59秒~)
後半早々に左サイドのゴール前でクワラツヘリアとデストが1対1を迎え、クワラツヘリアの仕掛けに対応し切れずデストがPKを献上。55分、そのPKをポリターノがモノにしました。
このシーンはGKメニャンからのロングボールのこぼれ球を相手に拾われ、そこから自陣に押し込まれるといった流れからの状況でしたが、90分の中でそのようなシチュエーションは少なからず生じます。この状況はデスト個人にとってそれほど酷だとは思いません。
また、クワラツヘリアがこの試合の前半からキレのある動きを見せ、マッチアップしたケアーとカラブリアの両方にイエローを与えるなど見事なパフォーマンスを披露していたのは事実ですが、それでも当該場面のデストの守備対応も軽率だった印象です。
そのため、この失点は単なる「個人レベル」のミスと判断し、「デスト、これから守備の改善を頑張ってくれ」とだけ言わせてもらいます。
続いてはナポリ戦での2失点目のシーンについて。今回はこちらが本題となります。
78分、マリオ・ルイのクロスをシメオネが頭で合わせ、ナポリが決勝点となる2点目を獲得しました。
(当該シーン:2分6秒~)
報道をざっと見る限り、こちらの失点は「トモリのミスによるものである」と断定されている印象を受けます。確かにゴールシーンにおいては、トモリがマークを担当するシメオネにまんまと前に入られてフリーでヘディングシュートを許していますし、そもそもトモリがこのような「クロスボールへの対応」に安定感を欠くきらいがあることは否定できません。
一方、この一連のシーンを「トモリのミス」だけで片づけるのは個人的印象としてはしっくりきません。そこで、当該場面をもう少し掘り下げていきたいと思います。

――シーン1-1
失点シーンから10秒ほど戻したところから見てみましょう。ナポリは右から中央エリア内にグラウンダーでパスを送り込み、シメオネがボールを受けます。ここで彼をマークしているのはカルルです。

――シーン1-2
その後の場面。カルルによるプレッシャーとベナセルの反応(ジエリンスキへのパスコース封鎖)によりシメオネはパスを出しあぐねます。そうこうしている間にベナセルがシメオネとの距離を詰め、更にトナーリもヘルプに入りシメオネをエリアから追い出していきました。

――シーン1-3
その後の場面。ここからが疑義を抱くシーンなのですが、ベナセルとトナーリに挟まれたシメオネは後ろを向いて何とかボールをキープ。しかし自由なスペースが無く、もはやバックパスを選択するしかない状況です(実際、このあと白矢印の方向にバックパス)。そこでカルルとしてはトナーリとベナセルにシメオネの対応を任せ、自らが空けた最終ラインのスペースに戻る(準備を行う)というのが適切な対応に感じるのですが…。実際のカルルは更にアグレッシブに前に向かい、背後からシメオネに圧をかけ続けました。

――シーン1-4
その後の場面。シメオネから左サイド後方のルイにバックパス。パスを出された後にもカルルは反動で前に出てしまい、自陣PAエリア内への帰陣が遅れることになります。また、ボールホルダーのルイに対してメシアス、前方のクワラツヘリアにデストがそれぞれ対応のため前進(メシアスはちょっと対応が遅いか)。するとトモリは手前にぽっかりと空いたスペースに入り込むフリーのジエリンスキ、そして自身がマークするシメオネの2人に挟まれ、判断に迷う状況に陥ってしまった、と。
先述の通りトモリのクロス対応は強みではないにせよ、もしカルルが事前に所定のポジションに素早く戻りチームとしてクロスに備えられていれば、トモリも対面のシメオネへのマークに集中することができ、延いては失点を防ぐことができたかもしれません。
この点、ケアーであれば「シーン1-3」の時点でエリアの状況を確認して素早く戻ったはずですし、それ故この失点はトモリだけでなくカルルにも責任があると僕は考えています。
上記のミスは「個人レベル」によるものだけでなく「組織レベル」にまで及んでいるため、先の1失点目に比べて深刻な問題といえます。
トモリ、カルル共に「縦」や「裏」への対応は非常に俊敏かつ執拗ですし、ミランの戦術的にも彼らのスピードやマーキング能力は極めて重要です。しかしながら、両者ともにボールホルダーに対する食いつきが「良すぎる」あまりに周囲の状況判断が疎かになるきらいがあり、今回のようにボールホルダーに時間を稼がれた挙句にパスを繋がれると、その周囲のスペースを使われ被決定機を迎えるリスクが高くなります。
事実、先日のCL第2節ザグレブ戦の失点や第5節インテル戦の1失点目など、相手ボールホルダー周辺の数的優位を活かせずにボールをキープされ、空いたスペースへとパスを繋がれて失点へと至ったケースというのは今回に限りません。
つまり現在、数少ないチャンスをモノにされて失点が続いている要因の一つがコレだというのが個人的見解です。
この点に関し、ピオリ監督がこの試合でケアーを先発に抜擢した理由の一つは上記問題点の解決にあったのかもしれません。
DFリーダーとして高い能力を備える彼は、優れた状況判断と冷静さで自ら安定したポジションを取れるだけでなく、味方への積極的なコーチングで周囲のポジショニングをも改善させられます。
実際はクワラツヘリアへのファールで早々にイエローを貰い、退場のリスク回避のため前半で交代となりましたが…。もしそれが無ければ後半も出場したでしょうから、上記のような形で2失点目を喫することも無かったかもしれませんね(もっと言うとその場合、カラブリアに代わってデストではなくカルルが右SBとして出場したでしょうから、1失点目も無かったかもしれない)。
タラレバはさておき。これからのミランが安定して勝利を積み重ねていくためには、現在の失点ペースを下げることは必須といえます。そして対戦相手が王者ミランへの徹底研究・分析を続けていく中で昨季終盤レベルの堅守を取り戻すなら、それはチームが更なる成長を遂げたときに他ならないでしょう。
具体的に、まずはデストやティアウなどの新加入選手がチームにフィットすることで戦力を底上げする。そしてトモリとカルルが個人技術だけでなく統率力を磨き、DFリーダーとして一皮剥けることが今後求められていくことになるのではないかなと。個人的な見立てとして「戦術レベル」は十分に通用していると思うので、やはり鍵になってくるのは個人の成長でしょう。
今回の代表ウィークによるシーズン中断期間を有効に活用し、失点減少に向け精力的に取り組んでもらいたいですね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
(※スパムコメによる荒らしが続いているため、しばらくのあいだ新作記事のコメント欄を廃止する予定です。予めご了承ください)
ただし今回は「守備の局面」、それも失点シーンに焦点を絞りながら振り返っていこうかなと。
止まらない失点
チームパフォーマンス的な観点からだと、このナポリ戦は非常に良いものだったと僕は思っていて、例えエースのレオンがいなくてもやり方次第で十分なパフォーマンスを維持する事が出来ると証明できたはずの試合だったと考えています。
しかし、結果は1-2の敗北です。
これにより今季のミランは公式戦ここまでの9試合で10失点を喫したこととなり、直近5試合全てで失点を記録。昨季終盤の堅守(11試合で2失点)を思い返すと酷い状況ですね。
その原因については様々考えられますが、ここではナポリ戦の2つの失点シーンを判断材料に、「個人レベル」によるものと「組織レベル」によるものの2点を指摘しておきたいと思います。
1失点目
まずは1失点目のシーンについてです。
(当該シーン:59秒~)
後半早々に左サイドのゴール前でクワラツヘリアとデストが1対1を迎え、クワラツヘリアの仕掛けに対応し切れずデストがPKを献上。55分、そのPKをポリターノがモノにしました。
このシーンはGKメニャンからのロングボールのこぼれ球を相手に拾われ、そこから自陣に押し込まれるといった流れからの状況でしたが、90分の中でそのようなシチュエーションは少なからず生じます。この状況はデスト個人にとってそれほど酷だとは思いません。
また、クワラツヘリアがこの試合の前半からキレのある動きを見せ、マッチアップしたケアーとカラブリアの両方にイエローを与えるなど見事なパフォーマンスを披露していたのは事実ですが、それでも当該場面のデストの守備対応も軽率だった印象です。
そのため、この失点は単なる「個人レベル」のミスと判断し、「デスト、これから守備の改善を頑張ってくれ」とだけ言わせてもらいます。
2失点目
続いてはナポリ戦での2失点目のシーンについて。今回はこちらが本題となります。
78分、マリオ・ルイのクロスをシメオネが頭で合わせ、ナポリが決勝点となる2点目を獲得しました。
(当該シーン:2分6秒~)
報道をざっと見る限り、こちらの失点は「トモリのミスによるものである」と断定されている印象を受けます。確かにゴールシーンにおいては、トモリがマークを担当するシメオネにまんまと前に入られてフリーでヘディングシュートを許していますし、そもそもトモリがこのような「クロスボールへの対応」に安定感を欠くきらいがあることは否定できません。
一方、この一連のシーンを「トモリのミス」だけで片づけるのは個人的印象としてはしっくりきません。そこで、当該場面をもう少し掘り下げていきたいと思います。

――シーン1-1
失点シーンから10秒ほど戻したところから見てみましょう。ナポリは右から中央エリア内にグラウンダーでパスを送り込み、シメオネがボールを受けます。ここで彼をマークしているのはカルルです。

――シーン1-2
その後の場面。カルルによるプレッシャーとベナセルの反応(ジエリンスキへのパスコース封鎖)によりシメオネはパスを出しあぐねます。そうこうしている間にベナセルがシメオネとの距離を詰め、更にトナーリもヘルプに入りシメオネをエリアから追い出していきました。

――シーン1-3
その後の場面。ここからが疑義を抱くシーンなのですが、ベナセルとトナーリに挟まれたシメオネは後ろを向いて何とかボールをキープ。しかし自由なスペースが無く、もはやバックパスを選択するしかない状況です(実際、このあと白矢印の方向にバックパス)。そこでカルルとしてはトナーリとベナセルにシメオネの対応を任せ、自らが空けた最終ラインのスペースに戻る(準備を行う)というのが適切な対応に感じるのですが…。実際のカルルは更にアグレッシブに前に向かい、背後からシメオネに圧をかけ続けました。

――シーン1-4
その後の場面。シメオネから左サイド後方のルイにバックパス。パスを出された後にもカルルは反動で前に出てしまい、自陣PAエリア内への帰陣が遅れることになります。また、ボールホルダーのルイに対してメシアス、前方のクワラツヘリアにデストがそれぞれ対応のため前進(メシアスはちょっと対応が遅いか)。するとトモリは手前にぽっかりと空いたスペースに入り込むフリーのジエリンスキ、そして自身がマークするシメオネの2人に挟まれ、判断に迷う状況に陥ってしまった、と。
先述の通りトモリのクロス対応は強みではないにせよ、もしカルルが事前に所定のポジションに素早く戻りチームとしてクロスに備えられていれば、トモリも対面のシメオネへのマークに集中することができ、延いては失点を防ぐことができたかもしれません。
この点、ケアーであれば「シーン1-3」の時点でエリアの状況を確認して素早く戻ったはずですし、それ故この失点はトモリだけでなくカルルにも責任があると僕は考えています。
失点を減らすために
上記のミスは「個人レベル」によるものだけでなく「組織レベル」にまで及んでいるため、先の1失点目に比べて深刻な問題といえます。
トモリ、カルル共に「縦」や「裏」への対応は非常に俊敏かつ執拗ですし、ミランの戦術的にも彼らのスピードやマーキング能力は極めて重要です。しかしながら、両者ともにボールホルダーに対する食いつきが「良すぎる」あまりに周囲の状況判断が疎かになるきらいがあり、今回のようにボールホルダーに時間を稼がれた挙句にパスを繋がれると、その周囲のスペースを使われ被決定機を迎えるリスクが高くなります。
事実、先日のCL第2節ザグレブ戦の失点や第5節インテル戦の1失点目など、相手ボールホルダー周辺の数的優位を活かせずにボールをキープされ、空いたスペースへとパスを繋がれて失点へと至ったケースというのは今回に限りません。
つまり現在、数少ないチャンスをモノにされて失点が続いている要因の一つがコレだというのが個人的見解です。
この点に関し、ピオリ監督がこの試合でケアーを先発に抜擢した理由の一つは上記問題点の解決にあったのかもしれません。
DFリーダーとして高い能力を備える彼は、優れた状況判断と冷静さで自ら安定したポジションを取れるだけでなく、味方への積極的なコーチングで周囲のポジショニングをも改善させられます。
実際はクワラツヘリアへのファールで早々にイエローを貰い、退場のリスク回避のため前半で交代となりましたが…。もしそれが無ければ後半も出場したでしょうから、上記のような形で2失点目を喫することも無かったかもしれませんね(もっと言うとその場合、カラブリアに代わってデストではなくカルルが右SBとして出場したでしょうから、1失点目も無かったかもしれない)。
タラレバはさておき。これからのミランが安定して勝利を積み重ねていくためには、現在の失点ペースを下げることは必須といえます。そして対戦相手が王者ミランへの徹底研究・分析を続けていく中で昨季終盤レベルの堅守を取り戻すなら、それはチームが更なる成長を遂げたときに他ならないでしょう。
具体的に、まずはデストやティアウなどの新加入選手がチームにフィットすることで戦力を底上げする。そしてトモリとカルルが個人技術だけでなく統率力を磨き、DFリーダーとして一皮剥けることが今後求められていくことになるのではないかなと。個人的な見立てとして「戦術レベル」は十分に通用していると思うので、やはり鍵になってくるのは個人の成長でしょう。
今回の代表ウィークによるシーズン中断期間を有効に活用し、失点減少に向け精力的に取り組んでもらいたいですね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
(※スパムコメによる荒らしが続いているため、しばらくのあいだ新作記事のコメント欄を廃止する予定です。予めご了承ください)