トナーリのプレースタイルについて~ミラノダービーで見せた変化と更なる成長~
先日のミラノダービーで印象的な活躍を見せた選手の1人がサンドロ・トナーリです。
今回はそんなダービーマッチで見せたトナーリのプレーについて、個別に振り返っていきたいと思います。
まずは攻撃(ボール保持)面について。この試合のトナーリは左サイドからの組み立て~崩しに至る過程において、非常に積極的に左サイド後方へと流れました。

――参考1:インテル戦におけるトナーリのヒートマップ
試合を振り返ると前半の4分。ピッチサイドのピオリ監督からトナーリが何やら指示を受けている姿が確認できます。試合開始後に見せた相手の反応を踏まえ、おそらくその際に基本となる立ち位置が明確に決まったのでしょう。

――シーン1:ピオリ監督から指示を受けるトナーリ

――その後のシーン
試合後にピオリ監督は、こうした動きの狙いについて「左サイドでのパス回しの安定(数的優位の形成)」及び「そこから右サイドへスムーズに展開する」ことを挙げています。右サイドへの展開については、右サイドのクオリティの問題もあり決定機に繋がるほどのシーンは中々作り出せませんでしたが、一方でトナーリ個人のパフォーマンスは上々でした。
中盤中央よりも相対的にスペースと時間を享受し易いこうした位置は、トナーリにとって「パス技術を活かすこと」に繋がります。
昨シーズンまで、ボランチにこの位置を取らせたい場合は主にケシエがその役割を担当していましたが、トナーリの方がこの位置からよりクリエイティブなパスを出せるという点でメリットを感じますね。

――シーン2:昨シーズン最終節、サッスオーロ戦での一場面
具体的に、この試合では裏へのロングパスが印象的でした。トナーリから放たれた正確なボールが前線のジルーに渡り、そこからシュートという流れで2度ほどインテルゴールを脅かしています。

――シーン3;トナーリによる裏へのロングパスに反応するジルー

――その後の場面。ジルーが胸トラップからシュートにまで持ち込んだ

――シーン4:トモリからパスを受けたトナーリは、そのままダイレクトで裏のスペースに正確なロングパスを供給

――その後の場面。ボールはそのまま裏へ飛び出した前線のジルーへと渡り、ダイレクトシュートにまで繋がった
そしてミランのチーム3点目は、密かにトナーリのロングパスが起点となっています。レオンの圧倒的な個人技が特大の注目を集めたシーンでしたが、その前に行われたジルーの正確なロングボールの落としと、トナーリの正確なロングパスはいずれも見事なプレーでしたね。

――シーン5:トナーリから前線のジルー、レオンへ正確なロングパス

――その後の場面。そのボールをジルーが正確なワンタッチで落とし、レオンにパスが通る。こうしてレオンのチーム3点目に繋がった
トナーリは上記のように後方でバランスを取りながらチャンスメイクを行っていただけではなく、機を見た攻め上がりでインテル守備陣に揺さぶりもかけました。

――シーン6:トナーリは後方からボールを持ち運び、サイドのレオンにパス。そして、シュクリニアルがレオンの対応に出た事で生じた前方のスペースを確認

――その後の場面。トナーリがそのまま当該スペースに走り込み、レオンからパスを引き出した
トナーリが「縦へのダイナミズム」を持ち味の一つとしていることは間違いありません。そのため、このような形で段階的に前方のスペースに飛び込んでいくというのは本人の適正に合っていると思いますし、始めからライン間に入り込むよりも向いているではないかとも感じますね。

――シーン7:左サイドでボールを持つトナーリ(赤)。そこから前線のジルーへと縦パスを供給

――その後の場面。ジルーの落としを上がって受けたトナーリがサイドに流れたデケテラーレにテンポ良く展開。惜しくもデケテラーレには合わなかったが、惜しい形を作り出した
今回のトナーリのプレースタイル・役割には大きな可能性を感じましたし、今後も状況に応じて定期的に採用されていく形であるように思われます。
続いて、守備面についても見ておきましょう。
昨季の時点でトナーリはミランの守備面においても非常に重要な選手になっていましたが、このインテル戦では更なる成長(進化)を証明したように感じます。
走力を活かしながらピッチを幅広く動き回り、強力なフィジカルでボールホルダーを粘り強くマークしてプレースペースを絶えず制限。そして、特にこの試合では鋭い反応で隙あらばパスを奪い取るインターセプトが非常に効いていました。

――シーン8:同点弾へと繋がったインターセプト

――シーン9:ブロゾビッチがドリブルでサイドから中央に侵入

――その後の場面。ブロゾビッチからバレッラにパスが出されるも、そこへはトナーリが鋭く介入。その後は「シーン8」と同様に一気にゴール前まで駆け上がり、シュートチャンスを作り出した

――参考2;この試合におけるインターセプト数ランキング。トナーリは「3回」で2位を記録
また、そのように安定した守備を可能にする判断面も特筆すべきものがあります。
守備時のインテリジェンスやポジショニング感覚をミラン加入から2年間じっくりと磨いたトナーリは、正確な位置取りで相手の攻撃を阻むことが可能です。例えばこうした能力は、ネガティブトランジションにおいても大きな効力を発揮しますね。

――シーン10:自陣PA内でクロスボールを回収したデフライは前方のラウタロに縦パス。ロングカウンターを目論むが、そこにトナーリが素早く反応

――その後の場面。トナーリの寄せによりスペースを制限し、味方と協力してボールを奪い再びミランボールとした
このような位置取り・反応によって相手の攻撃の芽を直接的に摘み取るだけでなく、そもそも相手にパスを「出させない」ことで前方へのパス展開を抑止できる点も見逃せません。

――シーン11:左サイド深くでミランがボールを失うも、すぐにカウンタープレスを仕掛ける。他方、ボールロスト後にトナーリも素早く同サイド側に移動して後方のスペースをケアすると同時に、バレッラをマークできる位置を取る

――その後の場面。インテルがサイドから抜け出し、中央でフリーのデフライにパスが通る。そしてバレッラがサイド方向に開きながらパスを要求するも、トナーリがしっかりと付いていくことでパス出しを躊躇させる

――その後の場面。パスを出しあぐねている間にデフライはデケテラーレにプレッシャーをかけられ、GKにバックパス。インテルは作り直しを余儀なくされる。ちなみにこの後、「シーン8」のインターセプト、延いては同点弾へと繋がった
こういう動きはスタッツには中々表れない部分ですが、相手のスムーズな攻撃を阻止し、自チームの安定した守備組織を維持する上では極めて重要といえますね。
最後に。トナーリは現時点でもチームにとって非常に重要な大切な選手ですが、まだまだ伸びしろがあるでしょう。このダービー戦での躍動を糧として更なる成長を遂げて欲しいと思います。
また、今後のトナーリにはミランでの大活躍と同時に代表でもレギュラーとしての地位を確立していく事が求められるはずです。彼ならばやってのけるでしょうし、大いに期待していきたいですね。
それでは今回はこの辺で。
今回はそんなダービーマッチで見せたトナーリのプレーについて、個別に振り返っていきたいと思います。
立ち位置の変化
まずは攻撃(ボール保持)面について。この試合のトナーリは左サイドからの組み立て~崩しに至る過程において、非常に積極的に左サイド後方へと流れました。

――参考1:インテル戦におけるトナーリのヒートマップ
試合を振り返ると前半の4分。ピッチサイドのピオリ監督からトナーリが何やら指示を受けている姿が確認できます。試合開始後に見せた相手の反応を踏まえ、おそらくその際に基本となる立ち位置が明確に決まったのでしょう。

――シーン1:ピオリ監督から指示を受けるトナーリ

――その後のシーン
試合後にピオリ監督は、こうした動きの狙いについて「左サイドでのパス回しの安定(数的優位の形成)」及び「そこから右サイドへスムーズに展開する」ことを挙げています。右サイドへの展開については、右サイドのクオリティの問題もあり決定機に繋がるほどのシーンは中々作り出せませんでしたが、一方でトナーリ個人のパフォーマンスは上々でした。
ロングパスによるチャンスメイク
中盤中央よりも相対的にスペースと時間を享受し易いこうした位置は、トナーリにとって「パス技術を活かすこと」に繋がります。
昨シーズンまで、ボランチにこの位置を取らせたい場合は主にケシエがその役割を担当していましたが、トナーリの方がこの位置からよりクリエイティブなパスを出せるという点でメリットを感じますね。

――シーン2:昨シーズン最終節、サッスオーロ戦での一場面
具体的に、この試合では裏へのロングパスが印象的でした。トナーリから放たれた正確なボールが前線のジルーに渡り、そこからシュートという流れで2度ほどインテルゴールを脅かしています。

――シーン3;トナーリによる裏へのロングパスに反応するジルー

――その後の場面。ジルーが胸トラップからシュートにまで持ち込んだ

――シーン4:トモリからパスを受けたトナーリは、そのままダイレクトで裏のスペースに正確なロングパスを供給

――その後の場面。ボールはそのまま裏へ飛び出した前線のジルーへと渡り、ダイレクトシュートにまで繋がった
そしてミランのチーム3点目は、密かにトナーリのロングパスが起点となっています。レオンの圧倒的な個人技が特大の注目を集めたシーンでしたが、その前に行われたジルーの正確なロングボールの落としと、トナーリの正確なロングパスはいずれも見事なプレーでしたね。

――シーン5:トナーリから前線のジルー、レオンへ正確なロングパス

――その後の場面。そのボールをジルーが正確なワンタッチで落とし、レオンにパスが通る。こうしてレオンのチーム3点目に繋がった
前線への飛び出し
トナーリは上記のように後方でバランスを取りながらチャンスメイクを行っていただけではなく、機を見た攻め上がりでインテル守備陣に揺さぶりもかけました。

――シーン6:トナーリは後方からボールを持ち運び、サイドのレオンにパス。そして、シュクリニアルがレオンの対応に出た事で生じた前方のスペースを確認

――その後の場面。トナーリがそのまま当該スペースに走り込み、レオンからパスを引き出した
トナーリが「縦へのダイナミズム」を持ち味の一つとしていることは間違いありません。そのため、このような形で段階的に前方のスペースに飛び込んでいくというのは本人の適正に合っていると思いますし、始めからライン間に入り込むよりも向いているではないかとも感じますね。

――シーン7:左サイドでボールを持つトナーリ(赤)。そこから前線のジルーへと縦パスを供給

――その後の場面。ジルーの落としを上がって受けたトナーリがサイドに流れたデケテラーレにテンポ良く展開。惜しくもデケテラーレには合わなかったが、惜しい形を作り出した
今回のトナーリのプレースタイル・役割には大きな可能性を感じましたし、今後も状況に応じて定期的に採用されていく形であるように思われます。
優れた身体能力と反応
続いて、守備面についても見ておきましょう。
昨季の時点でトナーリはミランの守備面においても非常に重要な選手になっていましたが、このインテル戦では更なる成長(進化)を証明したように感じます。
走力を活かしながらピッチを幅広く動き回り、強力なフィジカルでボールホルダーを粘り強くマークしてプレースペースを絶えず制限。そして、特にこの試合では鋭い反応で隙あらばパスを奪い取るインターセプトが非常に効いていました。

――シーン8:同点弾へと繋がったインターセプト

――シーン9:ブロゾビッチがドリブルでサイドから中央に侵入

――その後の場面。ブロゾビッチからバレッラにパスが出されるも、そこへはトナーリが鋭く介入。その後は「シーン8」と同様に一気にゴール前まで駆け上がり、シュートチャンスを作り出した

――参考2;この試合におけるインターセプト数ランキング。トナーリは「3回」で2位を記録
ネガティブトランジション時の正確性
また、そのように安定した守備を可能にする判断面も特筆すべきものがあります。
守備時のインテリジェンスやポジショニング感覚をミラン加入から2年間じっくりと磨いたトナーリは、正確な位置取りで相手の攻撃を阻むことが可能です。例えばこうした能力は、ネガティブトランジションにおいても大きな効力を発揮しますね。

――シーン10:自陣PA内でクロスボールを回収したデフライは前方のラウタロに縦パス。ロングカウンターを目論むが、そこにトナーリが素早く反応

――その後の場面。トナーリの寄せによりスペースを制限し、味方と協力してボールを奪い再びミランボールとした
このような位置取り・反応によって相手の攻撃の芽を直接的に摘み取るだけでなく、そもそも相手にパスを「出させない」ことで前方へのパス展開を抑止できる点も見逃せません。

――シーン11:左サイド深くでミランがボールを失うも、すぐにカウンタープレスを仕掛ける。他方、ボールロスト後にトナーリも素早く同サイド側に移動して後方のスペースをケアすると同時に、バレッラをマークできる位置を取る

――その後の場面。インテルがサイドから抜け出し、中央でフリーのデフライにパスが通る。そしてバレッラがサイド方向に開きながらパスを要求するも、トナーリがしっかりと付いていくことでパス出しを躊躇させる

――その後の場面。パスを出しあぐねている間にデフライはデケテラーレにプレッシャーをかけられ、GKにバックパス。インテルは作り直しを余儀なくされる。ちなみにこの後、「シーン8」のインターセプト、延いては同点弾へと繋がった
こういう動きはスタッツには中々表れない部分ですが、相手のスムーズな攻撃を阻止し、自チームの安定した守備組織を維持する上では極めて重要といえますね。
最後に。トナーリは現時点でもチームにとって非常に重要な大切な選手ですが、まだまだ伸びしろがあるでしょう。このダービー戦での躍動を糧として更なる成長を遂げて欲しいと思います。
また、今後のトナーリにはミランでの大活躍と同時に代表でもレギュラーとしての地位を確立していく事が求められるはずです。彼ならばやってのけるでしょうし、大いに期待していきたいですね。
それでは今回はこの辺で。