「ケシエの代役は誰になる?」その1~ケシエのプレースタイルについて~

フランク・ケシエ
退団するケシエの後釜として、かねてからレナト・サンチェスの加入が有力視されています。
しかし、サンチェスはタイプ的にケシエとは異なるため、彼の実質的な代役にはなり得ないだろうとの言説は既にチラホラ聞かれるところです、

そこで「ケシエの実質的な代役は誰になるのか」という論点が生まれるわけですが、この疑問については僕も何度か他の方から尋ねていただいたことがあって、おそらく話題性が比較的高い問題であろうと思われます。

そこで今回は、この点についての自分なりの考えをまとめていこうかなと。


ケシエの強み~攻撃面~


この話を進めていくに当たり、最初にケシエのプレースタイルを振り返りつつ、チームにおける彼の「スペシャリティ」が何であったかを確認する必要があるでしょう。

最初に攻撃面についてですが、やはり「プレーエリアの広さ」という点が一つ挙げられます。
高水準のプレービジョンを持っているケシエは、様々なエリアでボールを受け、そこで安定したプレーを行うことができる、と。例えば組み立ての局面において、ダブルボランチとして相方とピッチを分割しながら動くプレー(※1)はもちろんのこと、アンカー役として1人でDFラインの前にポジションを取る形(※2)、更には前に上がったSBの背後に潜りCBとして3バックを形成する形(※3)など、試合毎ないし試合状況に応じて様々な位置に入って攻守のバランスを担保できますね。

【21-22】ミラン_ビルドアップユニット2

――※1



【21-22】ラツィオ対ミラン_戦術分析6

――※2



【21-22】サッスオーロ対ミラン_戦術分析5

――※3




ピオリ監督はケシエのこうした部分を高く評価していたことは明白で、時にはトップ下で起用し高い位置にケシエを配したり、4-3-3のインサイドハーフで起用したりなど、その能力を買っていたことが窺える采配が随所に見られました。

もちろん、ケシエは色々な位置でボールを受けるだけでなく、そこで安定したプレーができるのもポイントです。ボールを持って何か特別なことが出来るタイプではありませんが、パスの判断・精度が正確なためチームとして不用意なボールロストを招くというシーンはかなり少ないですし、相手の守備組織が乱れていれば縦パスを入れてチャンスメイクしたりドリブルで運んだりといったプレーも行えます。
こうした安定感のあるプレーというのは地味ながらとても大事なところで、プレーの判断が雑で随所にチームにピンチをもたらすバカヨコが加入した今季は尚更その重要性を感じました。

ケシエの強み~守備面~


続いて守備面についてですが、ここはやはり「相手の前進を阻む力」が特筆すべき点でしょうか。
守備時のミランは、相手ボールホルダーに対し継続的かつ強度の高いプレスをかけ、自由なプレーを許さないという約束事がチームに浸透しており、それは特に中央でボールを動かし得る相手MFを担当するミランの中盤選手に強く求められるものです。

この点、強靭なフィジカルと高水準の走力・持久力を備えたケシエは見事にその役割を遂行していました。独力のボール奪取能力こそ(データで見ると)リーグ平均レベルですが、対面の相手MFに継続的にプレッシャーをかけて有効なパス・ドリブルをさせず、自チームにとって有利な場所(大体はサイド)へとボールを誘導するというプレーを通じてチームの機能的なプレッシングに大きく貢献していたのではないか、と。

こうした「抜かれない(前を向かせない・自由にプレーさせない)守備」という点に関し、ケシエはリーグトップクラスの選手だったといって良いと思います。
実際にデータで見ても、「ドリブルで抜かれた回数」は1試合換算で「0.47回」と今季のリーグ1位となる数値を記録。ボールホルダーに対しそこまで積極的にはボールを奪いにいかないプレースタイルが関係しているとはいえ、やはり非常に抜かれにくい選手であることは確かです。

【21-22】ケシエ_ドリブルで抜かれた回数&ドリブルに対するタックル成功
――今シーズンにおけるケシエの「ドリブルで抜かれた回数」と「相手のドリブルに対するタックル成功率」の平均、及びセリエAの中盤の選手を対象としたパーセンタイル。両方の数値「0.47回」と「60%」はいずれもセリエAトップ

そして、こうした能力はネガティブトランジションの局面においても多大な効果を発揮します。チームのボール保持時にケシエがアンカーポジションに入る、もしくは攻め上がった同SBテオの背後のスペースを管理するなどといった形でボールロスト時に備え、実際に相手に同スペースを突かれた際には素早い反応によって相手のスムーズな前進を阻むといった場面がシーズンを通して見られました。

また、ここからはより主観を含んだ意見になりますが、そもそもケシエという存在が相手ボールホルダーに「前を向き、仕掛ける」という選択肢自体を奪っていた側面も多分にあるでしょう。機動力もあるケシエの寄せに対して前を向くというのは非常に難しいですし、それにオープンスペースでもケシエに仕掛けて突破できる選手というのはかなり限られますしね。
例えば、ラツィオ戦でのミリンコビッチ・サビッチはケシエの寄せに対してもボールキープし打開を図ろうとするそぶりを何度か見せましたが、そうした場合にケシエにプレッシャーを強められボールロストするシーンというのが散見されました。

【21-22シーズン】ミラン対ラツィオ_戦術分析3
――例えばこの場面。CBから縦パスを受けるサビッチに対し、寄せに行くケシエ


【21-22シーズン】ミラン対ラツィオ_戦術分析4
――その後の場面。ケシエのプレッシャーによりサビッチはボールロスト。そのままミランのショートカウンターに繋がった

相手に仕掛けさせない「抑止力」という面でのケシエの貢献も非常に大きかったと思いますし、これは数字にははっきり表れない部分なだけに、改めて強調しておきたいところです。



さて。という訳でケシエのプレースタイルの内、現チームにおいて専門性の比較的高かった内容をここまで見てきました。

ではこうした部分を来季はどうチームとして補っていくかという所で、本題に入ろうと思ったのですが…。ここまででだいぶ文章量が多くなったため、ここからの話は後日に回させてもらいます。

今回は話題提示も兼ねてという事で、ぜひ読者の皆様もこの話題に関して考えてみてはいかがでしょうか。

それでは今回はこの辺で。

5Comments

マツモト

代わりは

ケシエは前に出過ぎた最初の頃はチャンスを潰していた印象ですがそれ以外の部分では前回のコメントのとうり似た能力、総合力を持った選手はお安く取ることは難しいのではないでしょうか。
カゼミロ、ミルナー、デクランライス、ザヴィッツァー、トーマスパーティー、デニスザカリア、ミリンコヴィッチサヴィッチうーん若くて安く取れそうな人は思いつかない、やはり金かけず当分はトナーリとラデで良いのでは、ケシエの役割もわかっているしアドリ、レナトが前めの適正が有りそうですし、、、、ポベガの特性がよくわからないのですが頭良さそうだしフィジカル的に好きだけど代わりが務まるようですか❓

これは面白みのないコメントですね。

  • 2022/06/08 (Wed) 01:30
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Aki

いつもありがとうございます。

1)~3)の解説、とても分かりやすいです。このタスクを全部こなすのはかなり難しいですし、今季トナーリが近いことをやってくれた一方でベナセルやクリニッチでも難しいかなと言う印象です。優劣ではないのですが。
ポベガにも出来るのかもしれませんが、そこまで良く見れておらずわからないですし、レナトアドリなどみんな違いますね。
ぜんぶそうですがミランでは特に3)が重要なので難しいですよね。
リツイートしましたが代役というより433にするのが良いと考えてます。ジルーやオリギがCFのときWGとの距離感が気になるので両WGは少しオフェンス比重を高くして、いっぽうMFはアドリやRサンチェスが3センターに適しそうな印象ですので。

にしてもバカヨコとはいったい…

  • 2022/06/08 (Wed) 14:35
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マツモト

ジャン・オナナの名前が出たけどこの方はいかがでしょう、かなりゴツくていい。

  • 2022/06/08 (Wed) 23:38
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カカニスタ22

カカニスタ22

To マツモトさん

コメントありがとうございます。

フロントのここまでの動きを見ていると、ケシエの実質的な代役を補強するつもりはあまりなさそうです。そのことから、仰るような選手たちを同ポジション・役割で起用していく形になりそうですね。

オナナは現時点で良く知らない選手なので、後で調べてみます。すみません。

  • 2022/06/09 (Thu) 15:54
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カカニスタ22

カカニスタ22

To Akiさん

コメントありがとうございます。

仰るようにケシエの役割をそのままそっくり誰かに回すのは難しいので、分担していく形にはなるでしょうね。その上で、各選手がそれぞれの役割をケシエがやっていた頃と同等かそれ以上のパフォーマンスでこなすことで、チームの総合力を上げていければベストだと思います。

サンチェスをトップ下で起用するという話もチラホラ見かけますが、それなら動的な構造としてボール保持時は4-3-3と似た感じになるでしょうね。今季の時点で既にその下地はできているので、同システム採用の比重は高まると思います。

  • 2022/06/09 (Thu) 16:37
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