クルニッチの奮闘と貢献を振り返る~ユーティリティープレーヤーの価値~
長丁場のリーグ戦において、全ての試合でベストメンバーを起用できるなんてことは起こり得ません。
怪我や体調不良、過密日程を理由とするターンオーバーなどにより主力選手が欠場することはシーズンの中で当然ながらあるわけで、その点から「控え選手(準レギュラー)のパフォーマンス」というのはリーグ戦の最終成績を左右する重要な要素の一つとなります。
そして今季のミランにおいて、準レギュラーとして見事な貢献を果たした1人がラデ・クルニッチです。
そこで今回はクルニッチの起用法という観点から、2021-22シーズンを振り返っていきたいと思います。
クルニッチの力が求められたのはシーズン開幕からでした。
当時はケシエが珍しく負傷離脱して開幕アウト、そしてベナセルもコンディション不良という状況下で、クルニッチはトナーリとダブルボランチを構成して第1節、2節に連続で先発しました。
持ち前の運動量と献身性・ポジショニングセンスで攻守に卒なくプレーし、チームのスタートダッシュに貢献していきます。
その直後の代表ウィークで負傷し、1カ月ほど戦列を離れたクルニッチ。
しかし復帰後にはすぐにまた出番が到来します。その当時はブラヒムがコロナウイルスを理由に離脱してしまい、空いたトップ下のポジションを埋める仕事が求められました。
10月中旬の第8節ヴェローナ戦に始まり、そこから11月7日の第12節インテル戦までの時期はトップ下を主戦場としてプレー。また、10節のトリノ戦では決勝ゴールをアシストする活躍を見せました。
続く12月。この時期のクルニッチは左サイドハーフに持ち場を移します。当時はレギュラーのレオンが1カ月ほど負傷離脱してしまい、その代役となるべきレビッチも相変わらず負傷中という状況だったため、クルニッチに同ポジションを埋める仕事が求められました。
この時期において、彼のハイライトとなったのがCLのグループステージ第5節、アトレティコ・マドリー戦ではないでしょうか。この試合においてクルニッチは相手CBへの鋭いプレッシングと下がって中盤のスペース・選択肢を制限する両方の働きを的確かつ忠実に遂行し、アトレティコの攻撃を妨害。チームのウノゼロ勝利に貢献しました。
さて。ウィンターブレイクを挟み、シーズンも後半戦に突入。1月に入ってまずクルニッチに求められたのがボランチでのプレーです。当時はケシエ、ベナセルの2人がANC(代表戦)を理由に抜けてしまったため、シーズン当初のようにトナーリとダブルボランチを構成します。
シーズン後半戦1発目の第20節ローマ戦では、ボール保持時に高めの位置に侵入する形で実質インサイドハーフとしてプレー。また同時期に行われたコッパ・イタリアのジェノア戦では試合中にポジション取りを少し変えるなど、その柔軟性を披露しました。
続く2月。ベナセルとケシエのANC組が復帰し、他ポジションも人数が揃っている状況になったため、出場機会を減らすようになったクルニッチ。2月最初の第24節インテル戦から5月初めの第35節フィオレンティーナ戦までの約3カ月間は、プレー時間にして約150分、カップ戦を含めても1試合の先発に止まってしまいました。
しかしながらシーズン最終盤戦、最後の3試合にて再び重要な役目が回ってきます。ヴェローナ、アタランタ、サッスオーロと中位ながら攻撃力のあるチームに対し、ミランはクルニッチをトップ下に先発起用して対策。彼のフィジカルや運動量、そして守備時の後ろ向きの走力やスペースを埋める感覚により、相手チームの流動的な攻撃を封じ込めていきました。
こうしたクルニッチのパフォーマンスもあり、ミランは得点力のある彼ら3チームに対し計1失点で終えることに成功、スクデット獲得に向けた最終局面において重要な貢献を果たしてくれました。
結局、クルニッチの今シーズンの成績は公式戦35試合(1810分)で1アシスト。うち先発は20試合という事で、出場数という点からも彼の貢献度は窺い知れますね。

――今季におけるクルニッチの出場ポジション、得点、アシスト(『transfermarkt』より。出場時間の少なさ等により6試合分のデータがここでは記載されず)。第16節のサレルニターナ戦では1トップ(SS)、第33節のジェノア戦では右SBとしてもプレーした
○おわりに
さて。こうして振り返ると、バックアッパーという位置付けながらクルニッチにはシーズンを通して助けられたなぁと改めて思います。
もしレビッチやブラヒムが期待を裏切らなかったら、またシーズン前にバカヨコではなくまともなボランチを補強していたならば、彼の出番はもっと少なかったでしょう。しかし、長いシーズンの中でいくつかの誤算は生じ得るものですし、そうした誤算を補える総合力も強いチームには必要とされます。
その点、クルニッチのどんなポジション・役割でもこなしてやるという気概や犠牲心、それを可能とするインテリジェンス、そしてチーム事情に応じてベンチに長く座ることになっても決して腐ることなく、次のチャンスに向けて黙々と準備する献身性やチームへの忠誠心というのは本当に素晴らしいですし、彼のような存在はチームの総合力を高めるためには欠かせないと思います。技術だけ見れば彼を上回る選手を補強することは比較的容易でしょうが、上記の点ゆえ代役を見つけることは実際そこまで簡単ではないでしょうね。
そして以上を踏まえると、クルニッチに契約延長の噂があるのは嬉しく思います。
マルディーニとマッサーラは2026年までクルニッチの契約を延長する意向のようだ。現在の彼の年俸は110万ユーロで、新契約では昇給が期待される――Alessandro Jacobone
現在のクルニッチの契約期間は2024年6月末までとなっているので、これは事実であれば2年の契約延長となります。
優先順位という点で、クルニッチの契約延長が行われるとしてももう少し後になりそうですが、個人的には実現してくれると嬉しいですね。
最後に。来季のスタメン争いは今季よりも激しいものになるでしょうし、それゆえクルニッチが出場機会を減らす可能性は十分に考えられます。しかし彼の有用性は証明済みですから、彼に対するピオリ監督の信頼が変わることは無いでしょう。
現時点で残留が確実とは言えませんが、出来れば来季もまたユーティリティープレーヤーとしてチームを支えてもらいたいですね。
それでは今回はこの辺で。